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なくした姿
「なぁ龍 、今度飲み会するからお前も連れてこいって頼まれたんだけど。良い機会だし、新しい恋人でも作れば?お前モテんだし、寂しがり屋だし、必要だろ?」
「う――ん……」
「おーい、聞いてる?」
学食のテーブルの上でコーヒーの入った紙コップをふらふらと揺すりながら佐原の誘いに茅葺は上の空だ。
「泉巳 くん!」
その響きに反応したのか茅葺は手の動きが止まった。佐原の後ろからロングヘアーがふわふわと印象的な女子生徒が駆け寄って来た。学部が違うせいもあってそれは茅葺の全く知らない相手だった。
二人が楽しそうに笑い合う姿を茅葺はジッと忠実な犬が飼い主を見るかのように眺めていた。
何の伝言もなく茅葺は先に校内を後にしていた。佐原は気まぐれな親友に一言言ってやろうと自宅の玄関の鍵を開けた。
だが、開けたドアの中からは人の気配がしなかった――。
「……静か? 寝てんのか?」
部屋に進むと何か抜け落ちたかのような室内に違和感を覚えた。
今朝まであった筈の茅葺が持ち込んだ本たちが消えていた。
本だけでなくCDも勝手にタンスに押し込んだ部屋着も、洗面所にあった歯ブラシも何もかも――。
ベッドの端に買ったばかりのタオルケットが丁寧に畳まれていて、変わらないのはそれくらいだった。
「――は? なに、これ……。何の整理……?」
――腹が立つ。
いくらメッセージを打っても既読になりもしなければ当たり前のように返信もない。電話にも出ない……。
「夜逃げかよ、お前は」
何度目かの留守番サービスをアナウンスする声に向かって佐原は届くことのない苛立ちをぶつけた。
親友がとった意味のわからない突然の行動に酷く苛立ちながら、それについて考えるのも辞めたくて携帯をベッドに投げた。
久しぶりに静かな部屋がなんとも落ち着かなくてテレビをつけてみてもイマイチどの番組もピンとこない。
当たり障りのない夕方のニュースをつけて聞き入ろうにも、勝手に頭は親友のことばかり考えてしまう。
あの日、ホームセンターで見かけた綺麗で印象的な顔の男――。
あれが龍の忘れられない相手、イズミ――。
隣にいた男がそのイズミの昔からの恋人で――。
――俺は……。どうしたかった――?
「俺は――あいつを……、龍を……」
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