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やきもちと涙

 男との性経験があるせいか、茅葺は何の躊躇いもなく起き上がりかけた佐原の中心を口に含んだ。  その衝撃的な映像が佐原の脳回路をパンク寸前にしていた。  こんな風に“イズミ”ともしていたんだろうか、なんて。今は考えなくても良いことを嫌でも考えてしまうのは自分も茅葺を恋愛対象として見ていたからなんだと改めて自覚する。考えまいと佐原は目をギュッと閉じた。  目を閉じると嫌でも茅葺の肌の温度に集中してしまう。自分のものを何度も舐め上げる長い舌の感触も、擦ってくる大きな手の感触も、刺激が確実にハッキリと伝わって佐原は何度も短く小さな悲鳴をあげた。 「とぉるっ……、や、もう、ヤバイッ……」 「――気持ち良い? 良かった」  お前は何を呑気な事を言っているんだと佐原は怒鳴ってやりたい気分だったが、とてもじゃないが今はそんな大声など出そうにもなかった。  身体中の力が抜けて、痺れて、足の指をヒクヒクと動かすことくらいしか出来なかった。 「あ……っ、龍……ッ!!」  佐原は頭の中がクラッシュしてしまったみたいに一瞬で真っ白になった。周りの音も聞こえなくて、暫くして耳に聞こえてくる音が自分の荒く上がった呼吸だということがわかった。  ぼんやりと天井が視界に入ってきたのを認識した瞬間に自分の後ろ側に指が触れて一瞬で頭が冴えた。 「ひっ!」  初めての感覚に思わず慄くような声が出る。茅葺の長い指が器用に佐原の後ろ側を佐原が出したものでぐちゅぐちゅと音を立てながら這う。 「挿……れんの? 嘘だろ……?」 「じゃあ、しない――」  そう言って簡単にそこから手を離し、茅葺は佐原の耳や頬に何度も口付ける。 「あの、人……」 「なに?」 「あの人……とは、した――?」  そう問いかける佐原は真っ直ぐ茅葺を見れないのか、キスから逃げるように横を向いた。 「――うん」 「いっぱい――?」 「……………………忘れた」 「嘘下手か!!!」  佐原は横に向けていた顔を真正面に戻して頭上にある茅葺を真っ直ぐ睨んだ。だか、その顔は未だに逆上せて赤いままだった。 「あの人……より、たくさん、俺としろよ。俺……あの人になんにも勝てねーから……」  上がっていた眉を今度は下げて、ひどく自信なさげな顔で佐原が告げる。茅葺は少し驚いて目を見開いた後、はにかみながら笑った。 「全然違うよ、泉巳――。こんなにたくさん俺のこと思ってくれたのは泉巳だけだよ――。初めて会ったあの日からずっとずっと泉巳は俺に優しくしてくれた……。俺はそれにすごく救われたんだ――」  佐原の頬に両手を添えながら茅葺がゆっくりそう真摯に告げると、不安げだった佐原の表情が少しずつ和らぐ。 「ありがとう、泉巳――」  こつんと優しく額をくっつけられ、佐原は震えながら唇を噛み締めて溢れてくる涙を必死に堪えた。

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