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いとしい相手

 痛いと言ったらきっと茅葺(かやぶき)は今度こそ辞めてしまうだろう。佐原は必死に自分の狭い部分を割って進む熱い塊を短く息を何度も吐くことで耐えた。  心配そうに手を握られて、そんな些細な気遣いすら佐原にはたまらなく嬉しく思えた。   「あっ……、ん……、とぉ、る……」 「うん……」    四つん這いになった佐原に覆い被さるように茅葺は身体を倒して汗で濡れている佐原の首筋を強く吸った。敏感になった身体はそれだけでビクビクと腰を震わせる。  佐原は慣れてきたのか強張らせた身体を少しだけ柔らかく緩めた。その隙をついて茅葺は腰を深く進めると驚いたように佐原は嬌声をあげ、顔をシーツに落とす。 「泉巳……、辛い?」 「………………も、ぅ……ぃ」    殆ど吐息に近い佐原の言葉は茅葺には聞き取ることが出来なかった。耳を近づけてもう一度尋ねるとさっきよりも少し大きな声で佐原はゆっくり告げた。 「後ろ、やだ――、これ……好きじゃ、ない……」 「うん、わかった」  必要以上に物分かりの良い男はさっさと佐原の身体から出て行こうとする。 「違うっ! 前から、したいんだよ、痛くっても、俺、お前の顔見えないの、不安……だから……」  こんな心細い言葉を佐原から聞くのは初めてだった。振り向いてそう告げる佐原の頰は上気し、瞳は涙で潤んで乱れた髪は汗でうねり、親友関係では見ることはなかった、なんとも言えない表情と色気が濃く漂っていた。  今の自分は佐原にとって特別なんだと思うといつも以上の独占欲が茅葺の身体を襲った。瞳の奥に灯ったあからさまな欲望の火が佐原には見えたのか、少しだけ肩を竦められてしまった。  自分の本性を誤魔化すように佐原の身体を引き寄せ向かい合わせに自分の膝の上に佐原を乗せる。 「あっ、ちょっ……、(とおる)待って、高度過ぎる……っ」  火を点けたのはそちらなのだからもう待たないし、待てないと茅葺は慌てている佐原に気付いていないふりをして一度離れた場所にまた自分を馴染ませる。 「ひゃ……っ、あ……っ」  佐原は一人の力で上半身を支えることが出来なくて茅葺の肩にしがみつく。そのせいで余計自分の中に茅葺が深く入り込み、痛みとはまた違う刺激が腰を走り抜けた。  それを茅葺は見逃さなかった。佐原の細い腰を強く抱き締めて佐原が反応を見せた場所をわざと揺らして擦ってみせた。 「やっ! 龍ッ、そこ……、んんっ」 「――ここ? 気持ち良かった?」 「馬鹿ッ! 変なこと、言うなっ……んっ!」  初心者相手に茅葺はゆっくりとは言え、何度となく奥深く貫いては中を掻き回した。揺らされ、乱され、佐原からはもう言葉らしい言葉が出なくなっていた。 「ひっ! あっ、うー……っ、んん」  必死に声が出ないように佐原は唇を噛み締める。 「ダメだよ、唇切れちゃうから。泉巳」  頭を撫でてそう促されても大きくかぶりを振り、佐原は恥ずかしさからそれをやめようとはしなかった。 「泉巳、こっち見て」  瞑っていた瞳を薄っすらと開き茅葺の瞳となんとか目線を合わせた。目を見れたのはほんの一瞬で、すぐに唇が塞がれるが、大人しく佐原はそのキスを受け入れた。 「ひゃめっ……とおるの、舌噛んじゃうっ……」 「うん、だから、噛まないで」 「無理っ、むひ……っ」 「泉巳、俺を――離さないでね」 「うん……」  それは肉体の話なのか、精神の話なのか今の佐原にはとても確かめる余裕が無かった。今は言葉通りに必死に目の前の茅葺にしがみついて、何度も下から貫かれる刺激に耐える。  ゆらゆらと揺れながら佐原は何かに酔っているみたいな甘ったるい声を漏らす。 「龍……、嘘、みたい――」 「なに……?」 「龍が、俺の中にいんの――、変……な感じ……、すげぇ……あったかい……」  佐原の瞳から一粒の雫が弾けて頰を伝って溢れた。その姿が何よりも綺麗で艶やかで茅葺の身体中に今まで一度も味わったことのない、雷のような激情が走り抜け、気を抜くと自分も泣いてしまいそうになるのを堪えてなんとか笑ってみせる。 「うん……。俺も、あったかいよ。泉巳――」  なんとか震える声を紡いで愛しい相手に囁き、その身体をより一層強く抱き締める。背中にはそれを同じだけ返そうとしてくれる相手の掌の温度があって、それに気付いてしまうと茅葺はもう涙を堪えることが出来なかった――

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