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あふれる愛情
自分の恋愛フィルターのせいもあるだろうが、泉巳が俺のことを友達としてではなく、恋人だと意識した日から泉巳は変わった――。
ちょっとした時に俺が黙っていると、不意に背中や肩にペタリとくっついてきたり。そんな可愛い誘惑にまんまと俺がノると――
「何勃たせてんだよ!!」と、いきなり怒り出す。
――あなたが可愛いく触るからじゃない、ホント酷イワ。
そんなツンデレなところも可愛くてたまらない。
俺はそんな泉巳にどこまでも夢中なのだ――。
以前は背中合わせで眠っていた友達が、今ではこうして俺の方へ向かって眠り、無防備に寝息を立てている。
寝付きのいい泉巳は、俺がその可愛い寝顔をマジマジと眺めても、鼻にキスをしても、頰を撫でても起きることはなかった。
「好きだよ、泉巳……」
泉巳は怒るかもしれないが、泉巳がイズミという名前で良かったと今では思う――。
俺はこの名前を持つ人間に惹かれてしまうんだろう……。
俺は泉巳に出逢うべくして出逢ったのだ――。
泉巳を他の誰かに、なんて――
一瞬でもあの時考えた自分は大馬鹿だ――
泉巳は俺を救ってくれた人なのに――
この優しい手を離すなんて出来っこないのに――
「俺は……大馬鹿だ――」
学部の違う二人は全くもって構内で交わることはなかった――。
専攻科目も交友関係も全く違う。校内で会おうと思ったらあのベンチで待ち合わせる時くらいだ。
なので偶然学食で泉巳の顔を見掛けた茅葺はその瞬間、自分の中のメーターが急上昇するのを感じた。
いつもの“胡散臭い”と泉巳が形容するその笑顔で愛しい恋人の名を呼ぼうと口角を上げかけた瞬間、茅葺は田んぼにいる案山子かと思うほどの無機質な表情でメーターをLOWよりもさらに引き下げた。
「泉巳聞いてよ〜! この間さ〜っ」
「何、佐藤。重いよっ、背中に乗んないでっ」
案山子の、いや、茅葺の目には大好きな恋人の背後から見たこともない男が馴れ馴れしく片腕を回して、その見たこともない顔をこれでもかというくらいに泉巳にくっつけていた。
「みっちゃんが? え! マジで? 俺も会いたい! 飯行こう!」
泉巳は嬉々としてスマホを取り出し、佐藤と呼んだ男と何か連絡先の教え合いっこをしている様子だった。
二人がまた別の話で盛り上がる頃には、じっとりとこちらを不満そうに眺めていた茅葺の姿はすでに消えていた――。
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