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きみとぼくの証

「ん……、なに……? 寒い……」  泉巳が下腹部の肌寒さに珍しく眠りの途中で目を覚ます。  瞼を開くと同時に手にT字カミソリを持った茅葺と目が合い、泉巳は素早く身体を折り畳んだ。 「お前は!! 俺に何をしたんだ!!」 「剃毛!!」  顔の真ん中が埋まるかと思うほどのゲンコツを喰らい茅葺はベッドからすごい音を立てて落っこちていった。  下半身だけをすっかり裸にされていた泉巳は慌てて近くに落ちていた自分の服たちを拾い上げ身に付ける。  とりあえず剃毛は未遂に終わったのだと下着を履く時に見て安心した。  ずるずると痛む顔を抑えながら茅葺が身体を起こしてきた。なぜか加害者のくせに恨めしい眼をしていた。 「……みっちゃんて、ダレ?」 「え? ……友達。俺、みっちゃんの事、お前に話したっけ?……はっ! まさか?!」 「盗聴はしてないから、流石に」 「…………ウン。信用シテルヨ」  ロボットのように無感情なその返事に茅葺はあからさまに拗ねた顔で泉巳を睨むが「冗談じゃん」と泉巳に軽く肩を小突かれた。 「みっちゃんは高校の同級生。違う大学なんだけど今度こっちに来るって言うから皆で会おうって……」  泉巳が丁寧に説明する間も茅葺の表情は一向に明るくなる気配がなかった。 「え? ナニ、これ、ヤキモチ?――面倒臭ッ!!」  口から長いため息とともに泉巳は本心をはっきりと吐き出してしまう。 「泉巳はねぇ! 皆にオトコマエだから気付いてないんだよ!!」 「肉食茅葺に言われたくねーよ!」 「違うってば! 泉巳は初対面の俺にあーんな優しく出来る男なんだよ?!」  半分涙目で訴えて来る茅葺をあしらうように泉巳は短いため息をついた。 「あのさ。みっちゃんや同級生たちはお前より付き合い長いのね、それでずっと今の今も友達なの! わかる?! 友達!! お前は違うだろ! 知り合ってすぐ脱線しちゃったのは俺も一緒なんだからさ、それにっ――」 「それに――、なに?」  それまで怒涛のように喋り続けていた泉巳は急に黙り込んで、俯いたその顔は少し赤らんでいる。 「――何でもない、もう寝る」 「言ってから寝てよ! 気になるよ、ねえってば!!」  茅葺に背中を向けて掛け布団を被ろうとしている泉巳の腕を捕まえて制止する。捕まえた腕は抵抗する力も弱く、泉巳はすっかり耳まで赤くなっていた。 「……はじ、めて――なんだよ……。誰とも……したこと、なかった、の……」  ボソボソと震え気味な弱々しい声で泉巳は告げる。弱いのになんだかやけに耳に染みる魅惑的な甘い声だと茅葺は思った。 「わっ! 龍! 何当ててんだ! 馬鹿!」 「なるよ! なりますよ! そんな言われてなんねー奴いねーよ!!」 「逆ギレすんなよ!」  茅葺はすごい早さで背後から泉巳に張り付いて、その熱くなった身体を力強く抱き締めた。 「泉巳好き、大好き。好き、泉巳」  茅葺がお得意な、泉巳が弱点な、その好き好き攻撃に例外はなく、今日も泉巳は全身の力が抜けて火照る。  思春期の少年が覚えたばかりのキスをするみたいに、何度も茅葺は泉巳を襲って、肉食茅葺の名の通り、あっと言う間に服を脱がせて、好き放題に泉巳を触って味わう。  感じやすい小さな乳首を摘んで背中を跳ねさせて、唇を濡らして、茅葺は楽しそうに小さく笑う。  茅葺は長い愛撫で泉巳を炙ったりはしない。肉食男はそんなに甘くはなかった。常に早く繋がりたがった。器用に動くその長い指が、すっかり感じやすくなってしまった泉巳の秘部の奥を這い回り、泉巳の好きなその場所を何度も押しては、早く俺を欲しがってと、潤んだ瞳でひたすらに泉巳を見つめては迫る。  許したら最後、この男はどこまでもどこまでも自分を欲しがって、中に入りたがって、擦りたがって、中に印を残したがる。  常習性と依存性の高い茅葺のセックスに泉巳は負けてはならないとはじめは思うのに。その甘い瞳で、甘い声で、甘い身体で、愛していると魔法の言葉を掛けられると途端、理性も矜持も何もかもがどうでも良くなって、ただ目の前にいる男の愛情の全てが欲しくて堪らなくなる。  それがセックスならそれでいい、一緒に眠るだけと言うならそれでいい。茅葺の愛の証がなんであれ、その証の形に自分は従うし、それを、それだけを欲しいと泉巳は強く思うのだ。  太くて硬い茅葺の熱が、幸せそうに泉巳の中に包まれていく。泉巳は細い腰を震わせながら何度も息を吐いてそれを受け入れる。 「俺が……泉巳の……初めて、なんだ……」 「……ぅるさい……、も、言うな……、あっ!」 「ここに――入ったの、俺だけなんだね……」 「んっ……、あっ、あ……」  余計なことばかり話すくせに、大事な場所ばかりを掠められて泉巳は嫌味の一つも話せない。 「……とぉ、る――」  熱くなった泉巳の手が茅葺の両頬を優しく包む。 「なに?」 「――好き……だよ」  それは汗なのか、涙なのかはわからなかったけれど、泉巳の瞳の周りにはキラキラと雫が散らばる。 「……うん。俺も、泉巳。大好きだ――」  くしゃりと幸せそうに笑った泉巳は少し幼くて、ただ美しくて……何より、誰よりも愛しかった――

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