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ふたりの関係

泉巳(いずみ)ー! こっち、こっちー!」 「おーっ! お待たせー!」  改札口で待ち合わせた元同級生は、あの頃より少しだけ大人になっていた。 「うわ、泉巳! 垢抜けたな! 何だよ〜!」 「もっ、やめろよっ、髪ぐしゃぐしゃになんだろ!」 「みっちゃん興奮し過ぎっしょ!」  他人事みたいに佐藤は隣でゲラゲラと笑う。 「みっちゃん元気してた?」 「お前ねぇ、老人じゃねーんだから、フツーだわ!」 「いや、みっちゃんは爺さんみたいだったよ!」 「てめぇ! 泉巳!!」 「……さみしい」  そう呟いて茅葺(かやぶき)はラグの上にうつ伏せに倒れこんだ。  恋人にいってらっしゃいと告げてからまだ二時間も経っていない――。 「俺……、重症だ――」  いじけるように茅葺は大きな体をぎゅっと丸め、深いため息を落とした。  二年ぶりに会った友達との話は尽きなかった。  駅前にある大型アミューズメント施設で、どこの小学生かと思うくらいに三人で暴れるように遊びまわった。  こんな風に何にも考えずに、頭を空っぽにして友達たちと笑い合うのがひどく久しぶりだと泉巳は気付く――。  誰かと出会って、恋をして、それが恋だとわかるまでが長くて、怒って、泣いて……、両想いになって、また喧嘩したり、たまに会えなかったり――。  そうしている間ずっと、いつも佐原泉巳(さはらいずみ)の頭の中には茅葺龍(かやぶきとおる)がいたのだ――。 「龍は菌か、ウイルスだ……」そういうしつこい生物だ、きっと。と泉巳は誰にも聞こえない小さな声でひとりごちた。  きっと今頃自分がした噂のせいで、くしゃみをしながらさみしいよ〜って、あのデカイ図体を縮こめているのだろうと泉巳は思い描き、くすりと笑った。  散々汗をかいて遊び尽くした後、食事も兼ねてカラオケに入って落ち着いた。  午前中に待ち合わせてもうとっくに昼を回っていた。楽しい時間こそ、本当に早く過ぎるものだなと泉巳は満足気にメニューを覗く。  久しぶりに会えた友人との時間を邪魔してはいけないと我慢に我慢を重ねたであろう恋人が、それでも限界を迎えてメールして来たのは午後7時を過ぎた頃だ。 『帰るのって、明日?』  短いけれど、きっとこの文章は推敲に推敲を重ねたであろうことは泉巳にはとっくにバレている。  重くない男をどうにか創り上げようと最近の茅葺は妙に必死でそれが逆に露呈している。  本当にモテる男だったのか、今となっては不思議なところである。  ファミレスでその短いメッセージを読み、すぐに泉巳は返信した。 「……“終電までには帰ると思う”? 何それ! ふわっとしてる!!」  茅葺はスマホの画面に向かって声を荒げ、倒れこむように寝転んだ。 「みっちゃん彼女とまだ続いてんの?」と佐藤が半分は期待ナシに聞いた。それに気付いたようで聞かれた本人は「は〜い」と少し嫌味っぽく笑って答える。 「えー、すごい!」 「ちっ! マジかよー、何年目?」 「二年半かな」 「すげー」と泉巳は自然と羨ましそうに漏らす。 「泉巳は? お前皆にやさしいから仲々彼女出来なかったよな。大学では出来た?」  悪気のない言葉たちに少しチクリとしたが、笑って「いないねー」と泉巳は受け流す。 「こいつ茅葺とばっかツルんでんのよ。あいつといたら女全部持ってかれんのに」 「カヤブキ? 誰それ」 「経営のイケメンくん。すげーモテんだよ! 超肉食よ!」 「へ〜! 誰か紹介して貰えないの?」 「本当だよ、一人くらい恵んで貰えば? あと俺にもな!」  ぎゃははと佐藤は悪気のない明るい声で笑った。 「もーいいよ! この話は!!」 「何キレてんの?」 「そいつに好きな女取られたとか?」 「取られてねーし! そもそもそんな女いねーし!」  少ししつこく絡んでくる悪友に泉巳は顔を背けて片肘をついた。 ――龍が……  俺の好きな人なのに――。  何でもないような顔をして、痛む心を殺しながら、泉巳は左拳が痺れるほどに膝の上で強く握りしめた。

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