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ふたりの一歩
一緒にお風呂に入って、友達の話を少しして、残りのほとんどは泉巳が話すのをニコニコしながら茅葺が聞いている。そんないつもの日常に帰れて泉巳はホッとした。
髪についたタバコの匂いや、早く流したかった汗の余韻が消えて、いつもの恋人と同じ家の匂いに身体が包まれると、より一層安心出来た。
ベッドの柔らかさと背中にある恋人の体温が、一日中はしゃいだ心身に安らぎを呼んで、自然と眠くなる。
このまま眠ってしまえばきっと気持ちが良いだろうけど、泉巳はどうしても今日、話してしまいたいことがあったのだ。
「――龍……、寝た……?」
「起きてるよ……」
そう答える恋人の声はどことなく眠そうだ。
「俺……、正式に龍と、住みたい……」
茅葺はその言葉で冷水を浴びたように頭が一気に冴えて、睡魔がどこかに飛んで行ってしまった。
背中を向けて横になっていた泉巳が、茅葺の胸の前でくるりと回ってこちらに身体を向けた。
「俺、ずっと――龍といたい」
そう真剣に告げる恋人の顔もすっかり眠気から覚めたらしく、あの猫のように大きなハッキリとした瞳で茅葺を真っ直ぐに見つめていた。
茅葺は困ったように眉を下げて、顔を赤らめつつ、くしゃりと穏やかに笑う。
「うん。俺も――、泉巳と一緒に、ずっといたい――」
その返事に泉巳は自分から茅葺に抱きつき、両頬を取って優しく口付けた。こつんと額を合わせて二人でどちらからともなく笑った。
――恥ずかしいけれど、これは俺の独占欲だ。
あの人、イズミさん――。
こんなすぐ近くにあの人はいて、いつだって、どこかしらで出会うくらいの距離にいて――
あの人は、龍が泣いて、縋って、何よりも、誰よりも欲しがった相手――。
――何も感じないほど俺は大人じゃない。
《同じですね》
――何も同じじゃない……アンタは……。
実らなかった代わりに、汚れることなくずっと綺麗なまま、ずっと愛しい人のまま、ずっと龍の中に残って生き続ける――。
それはきっと、永遠に形を変えない――。
――ああ、くそ。
束縛なんてしたくなかったはずなのに――。
恋に、恋する相手に自分を変えられてしまった。
こんな簡単に自分は恋愛感情に翻弄されるのだと、茅葺を好きになって、泉巳は初めて自分の本性を思い知る――。
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