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第3話 ようこそブリタニア王国へ!

和葉は見知らぬ部屋のベッドの上で意識を 取り戻した。 ゆっくり目をめぐらせてみると、 白い天井にクリーム色のカーテンが目に入った。 少し開いている窓から心地よい風が吹き込んで 馴染み深い匂いを運ぶ。 「……(ここは、病院?)」 いや、規模的には”診療所”か。 ベッド脇の小机の上にある聴診器やカルテ、 壁際の古びた薬棚 ―― 衝立の向こうに見える診察台。    どれもこれも自宅へ帰れば目にする物だ。 机で仕事中だった白衣姿の男が、和葉が少し 動いて軋んだベッドの音で振り向いた。    全然、知らない人だ。 「あ ―― 良かったぁ……目が覚めて」 (声が……出せない) 「ホント、国境警備隊の連中がキミを担ぎ込んで 来た時はどうなる事かと肝を冷やしたよ」 (ってか、この人の喋ってる言葉も  分からない……一体、ここは何処なんだ?!) 「あ――もしかしたら、ってか、もしかしなくても  僕の喋ってる言葉、分からないね。参ったなぁ」 そう言って、本当に困った様子でしばらく いると ―― 「ベネット! 例の行き倒れは目が覚めたかぁ?」 と、お伽話に出てくる王子様が着ているような 服装の見たとこタメ年くらいの男子が入ってきた。 白衣の方を”インテリ系”とすると、 今入ってきた男子は若いが”ワイルド系”だ。 体のどこもかしこもとにかくデカい。 特にグンと盛り上がった上腕二頭筋は ”見事”のひと言に尽きる。 「若……またお1人でこのような所へ ――」 「ハイハイ、文句は後な。コレ、試してみな」 と、ワイルド系がインテリ系へ何かを渡した。 それをそのまま和葉へ差し出す。 それの見てくれはたとえて言うなら、小型の補聴器。 インテリ系が和葉に ”耳へ嵌めてみろ”と 手振りで示した。 和葉はかなり胡散臭く思いながらも、 インテリ系の掌からその補聴器を取って、 指示通り耳に嵌めた。 「さ、これでどう? 僕の言葉分かる?」 (え……どして? 分かる……) 「でも、まだ話せないよね? 治療の為に薬を使った  から。あ、常習性や副作用はない薬だから安心して?  ってか、見ず知らずの男から言われたって安心は  出来ないか? でも、今は痺れているだろうけど、  しばらくすればまた以前と変わりなく話せるように  なるから」 和葉はとりあえずそれを聞いてホッとする。 「あ、そうだ。僕はこの王立中央診療所の医師で 太朗ベネットって言います。宜しくね」 (ベネット、さん ――? 見かけは日本人  だけど、ハーフかクウォータ-なのかな)    「あ、それから、これ」 そう言ってスケッチブックとペンをベネットから 貰った。 「しばらくはこれで会話するといい」 それを聞いて和葉は早速何か書き始めた。 全部書き終えた所でハッと気付く、 (なんで俺、こんな言葉書けるの?  英語だって心もとないのに……) 「んー ―― なになに? ”ココは何処ですか”  あ、キミ、倒れる前の事、何も覚えてないの?」 (もちろんそれは覚えているが、  小川の渦の中に引きずり込まれた、  なんて言って誰が信じるか?  危険人物として警察へ通報されるか、  精神病院送りになるのが、関の山だ) ワイルド系がスタスタと壁の方へ行き、 そこへ貼り付けてあるどこかの国の地図を ポインターペンで示した。 「はぁーい、ではここに注目!  これは我がブリタニア王国の全体地図です。 そんでもって、この南部中央にあるのが、 ブリタニア王国の王都・ベンチュラの都。 今キミはこの都の王立中央診療所にいる」 「……」 「ここまでは分かったかなぁ?」 和葉は一応頷いたが、言葉は理解したという だけで、話しの内容を理解したワケではない。 しかし ―― 「はは~ん ―― そうゆう事か……よ~く  分かった……」   やおら立ち上がり   『あつし、柾也~、智紀、朔也ぁ』と友の名を   叫びながら両隣の部屋を覗く。 「もうっ。見事に引っかかったよ。いい加減  出て来いっ。おふざけはお終いだ!」 そう。 和葉は……これは友たちの仕掛けたドッキリだと 思っているのだ。 ま、和葉がここへ来た時の状況を考えれば、 そう思うのは至極当然の事なのだが…… 「ま、声は出せるようになったみたいだね」 「あの …… キミ。とりあえず座らないか?」 「連中は何処さ? まさか、もう飽きて  帰っちゃった? ドッキリの”大成功!”も  聞かずに」 インテリとワイルドは ”どうしたもんだかぁ” と、困ったよう顔を見合わせる。 「あなた達もご苦労様。どーせトモか朔也辺りに  しつこく頼まれたんでしょ」 「……よし。しゃーない。外へ出よう」 「えっ?! 若……」 「その若っての止めろよ。固っ苦しくていけねぇ」 と、ワイルド系が和葉の腕をとった。 「あ、ちょっと、何すん ――」 「論より証拠。城下の様子を見れば、一目瞭然だろ」 「私もお伴致しますよ」

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