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第6話 紅の離宮

俺が暮らす事になった『紅の離宮』に 馬車が到着した頃には、もう夜の9時を 回っていた。   「こちらが、本日よりリーフ様のお住まいになる  お屋敷ですよ。どうぞ、お上がり下さいませ」 そして私の身の回りのお世話をしてくれるって いう『側仕え』さんたちを、ゲイブが紹介してくれる。 これは後で教えられ本当にびっくりしたんだけど、 この”離宮制度”が制定されてから代々お妃候補の 住む離宮の”側仕え”は王都陸軍の”佐官さん”達が 担当しているんだそう。 その側仕えの中でも一番ランクの高い 『ガルシア大佐』が、屋敷の中を案内してくれた。 中世ヨーロッパ風の外観とは全く正反対の、 和洋ごちゃまぜな内装。 色々連れ回された後、 最後に寝室へ連れて行かれた。   「……」 無駄な大きいこのベッドは……? い、いやいや ―― 深く考えたらあかん! 「明日からお忙しくなります。どうぞ、本日は、  ごゆっくりお休み下さいませ」 そう言って、部屋を出て行こうとした ゲイブを呼び止めた。 どうしても、確認しておきたい事がある。 「あの……ゲイブ?」 「はい」 「あの、候補が全員、お妃にはならないよな?」 質問してから ハッ! と気付く。 そう言えば、身分の高い人には”正室”という名の 本妻さんがおって、その本妻さんでも手が回らぬ ところを補佐する役割りの”側室”という存在も あるって事を……。  「はい。もちろん、正室になられる方はお1人だけで  ございます。我がブリタニア王国建国200周年の  記念パーティーにて正式発表される事になって  おります」 つまり建国記念日に、って事か……。 あとどれ位の猶予があるんだろう……。 それと ――    「因みに正室にならず ―― いえ、  なれなかった人はどうなるんですか?」 はい! ココが一番重要ね。 「側室にならなければ、お宿下り……ご自宅に  お帰り頂く事になります」 「う”……」 「?」 う”ぉぉ~~~~っ!! 俺は心の中で思わずガッツポーズしかけた後、 ふと気が付いた。 俺の”お宿下がり”って、 一体何処へ行きゃいいの?   エディはあの鎮魂の丘で名前をくれた時、 『元の世界へ戻る方法はなるべく早く見つける』 って、言ってくれたけど……。    「……リーフ様、どうなさいましたか?」 「……あ、ごめん。何でもない」 「……リーフ様」 「はい」 「……いえ、さぁどうぞ、もうお休み下さい」 「あぁ、おやすみ」 「お休みなさいませ」 ゲイブとみんなが出て行ってから、 すぐにビックリサイズベッドの、 ふっかふか羽布団にくるまった。 「はぁ~~(生き返るぅぅ)」 あまりにも長かった1日が、 やっと終わろうとしてる……。 こんな世界に吹っ飛ばされて、挙句、 お妃様候補になって、 もう人生終わったとか思ったけど。 200周年の建国記念日。 とりあえずその日、 俺はその御役目から解放されるんだ。   ふと、目を向けた壁にカレンダーが貼ってあった。 あぁ、この世界にもコレはあったんだぁ……。 あ! そうそう、建国記念日ね ――  いつなんだろう……。 一番前 ―― つまり今表紙になっている面は ”5月” そこから順に捲っていくと。 来年”3月3日”が赤字になっていた。 で、その下に金字で”建国記念日”とある。 つまり、あと約1年 ―― 1年で俺は……。   その夜は久しく出さなかったパスケースを 出して握りしめ、 ちょっぴりセンチな気分で眠りに就いた。  

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