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第10話 触らぬ駄々っ子に祟りなし

本来なら今日は、休みを取った   日没ギリギリまでリーフと2人で過ごす予定 だったが、思わず口をついて出てしまった失言の せいでそれも叶わず。 期せずして空いてしまった時間は ぶつけようのない苛々を紛らわすよう、 公務に没頭した。 おかげで溜まっていた決済書類はかなり 片付いたが、気分は最悪なままだ。 付き合いの長い部下達は、休みの予定の エディが執務室へ現れた時点で彼の超絶に 悪い機嫌に気づき、まるで腫れ物に触るよう エディに接している。 ―― ドカッ 「チッ ――」 「……」 まただ。 これで今日、何度目かになるテーブルを蹴る エディ。 迷惑なことに、イライラを周囲にまき散らし 八つ当たりしまくっている。 「はぁ……」 この大きい駄々っ子がこうなってしまっては 手が付けられない。 執務室で雑用に追われていた若手の部下達は いつの間にかいなくなっている。 とばっちりが怖くて逃げたのだ。 普段なら小言のひとつでも言うところだけれど、 今回ばかりは何も言わないほうがいい。 エディの機嫌がここまで悪いのは、 当然リーフ様絡み。 あくまでもこれは憶測だが……恐らく、 思いを成し遂げるはおろか、その行為に至る事も 出来なかったのであろう。 何かは分からないが。 そして先ほどの白鳩便を見たエディは、 不機嫌度合いがグンと増した。 リーフ様からだろうか……だとするとヤバいな。 黒子に学校でリーフ様の様子を探らせているが まだ連絡はない。 こうゆう時に限って間が悪い人間というのは やって来るもので―― ノックの音と同時に開かれたドアから  『おじゃましま~す』と 艶やかな和装のニューハーフ・ビビアンが 入ってきた。 「ハ~イ! ビビアン姐さんがお金返しにきて  あげたわよぉ~ン」 エディとゲイブはビビアンの存在など 一切無視で仕事を続ける。 「ちょーっと! そこの2人。なに普通に  無視してんのよっ。それが幼なじみに接する  態度ぉ?! ってか、私はお客よ」 エディの怒りが炸裂。 「気色悪いカマ野朗が顧客ヅラしてんじゃねぇっ!」 それに対抗するビビアンも負けてはいない。 「気色悪い?! この美貌が目に入らないようじゃあ  眼科行きなさいよ、今すぐ」 「うるせぇ、てめぇは精神科に行きやがれ」 その頃になってやっと、中堅部下・ダニエルが いそいそと入ってきた。 もちろんエディはそちらへも苛立ちをぶつける。 「ってか、ダニーってめぇも何ボケっとしてんだよ。  早いとこその男女追い出せ」 「はぁ ―― お止めしたのですがビビアン様が  どうしても直接陛下へ返済したいとおっしゃられ  まして」 ビビアンはすぐ帰る気などさらさらない、 といった様子で片隅の応接ソファーへ 優雅に腰を下ろした。 「(#゚Д゚)ゴルァ!! そこのオカマ。なぁに  寛いでんだよっ。さっさと金返して出て行け。  てめぇの気色悪いツラ見て客がヒキツケでも  起こしたら責任取れんのか?!」 「フンっ! ―― ダニーくぅん、コーヒーはブラック  でね」 「あいすみません、塩水以外は出すなときつく  申しつかっておりますので」 ”んん、っま!” と、ますます憤慨して、 ビビアンはエディへきつい視線をぶつける。 が。 「あら、そう言えばぁ ―― 確かあんた今日は」 その瞬間 目を見交わしたゲイブとダニーは ”マズい!!”と、慌てて話に割り込んだ。 「あ、ビビアンさん ”ダロワイヨ”のオペラがあるん  ですけど、良かったら召し上がりませんか?」 ゲイブは「グッジョブ! ダニー」と、 心の中で叫んだ。    「まぁ! ダロワイヨの?! 喜んで頂くわ」 「じゃ、談話室の方へ」 「あらどうしてぇー? ここへ持って来て  ちょうだいよ」 「あ、いや、それはその……」 「ところでエディ ――」 「わぁーーっ。ビビアンさんっ」 今度はゲイブだ。 「な、何かしら……?」 「実は折り入ってご相談したい事が」 「あら、なぁに?」 「ここでは何ですので、出来ましたら場所を ――」 「……分かったわ」 やっとビビアンは立ち上がった。 そして「それじゃ、ちょっと席を外します」 と言ったゲイブと共に出て行った。 エディは軽く伸びをして、 「あぁ~ぁ、俺もそろそろ帰るかな」 「あ、お疲れ様でしたぁ」 エディはドアを開いた所で一瞬立ち止まり、   気まずそうな表情で 「今日は色々悪かったな。皆んなへも 言っておいてくれ」と、言い残し足早に 立ち去った。

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