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第16話 エディ、暴漢に襲われる

ブリタニア王国・エンドア共和国・ バーベンベルク公国・モンゴラード連邦、 以上、4つの独立国から成る異世界に すっ飛ばされて、早や半年 ―― 別だん大きなアクシデントに見舞われる事なく、 春から夏をやり過ごし、今季節は実りの秋。 学校の勉強をする傍ら領民の農作業なんかの 手伝いもして。 マイペースな日々を過ごしていたが……。    「―― 申し訳ございません閣下。今日は保健所の  定期点検で朝からバタバタしていまして」 「車、すぐ回すように手配したので、今しばらく  お待ち下さい」 「構わん、んな急がなくてもいいぞ」 エディがそう言うと、護衛役のドジャーが屋敷内へ 再び入り、少しして車を回してきた運転手が 傘をさして後部座席のドアを開けた。 傍らのリーフが傘を差しかけ、 後部座席に乗りかけたその時! 『死ねっ、ランカスター卿っっ!!」 そう言ってナイフを握った男がエディに向かって 突進してきた。 「あぶないっ、エディっ」 リーフがとっさにエディを車の中へ押し込む。 それと同時に”シャッ”とリーフの腕を男のナイフが 抉った。 「っっ!」 「かずはっ!!」 その声にドジャーが気づいて走ってくる。 「リーフ様っ!! このクソ野郎っ」 ドジャーが男に飛びかかりゴロゴロと転がりながら 地面でもみ合う。 「かずはっ、大丈夫かっ??」 エディがリーフを抱き、 声をかけるとリーフは血の気の引いた顔で笑った。 「なんのこれしき。少し……抉られただけ」    ざわざわと集まってきた使用人達の騒ぎを聞きつけ 遅ればせながらゲイブも駆け付け、 暴漢はゲイブとドジャーに取り押さえられた。 車内からエディが叫ぶ。 「ゲイブ、早くかずはの手当を」 ゲイブは、一身上の事情から国家試験は 受験しなかったが王立大医学部を卒業した 元医学生なのだ。 「わかりました。―― リーフ様、歩けますか?   私の肩に掴まって下さい。とりあえず、  屋敷の中へ戻りましょう」 「あぁ、ごめんね、面倒かけて」 リーフがゲイブと共に邸内へ去ると、 ドジャーに取り押さえられ身動きひとつ取れない 憐れな暴漢を冷ややかな目で見下ろす。 「―― お前には失望したぞ、デクスター」 その暴漢はつい先日、公営カジノの不正行為斡旋で 解雇された元・支配人、デクスター・ゴードン。 「勝手にほざいてろ」 と、エディに向かってツバを吐きかける。 完全な逆恨みだ。 デクスターの犯行が発覚後、 エディは警察へは通報せず懲戒解雇処分のみで許した。 デクスターは7人兄弟の長男、母子家庭に育ち、 唯一の働き手である母も病弱で、彼を失えばたちまち 一家は路頭に迷うと知っていたから。 「! 温情措置は逆効果だったか」 「何が温情措置だ。ざけんなっ! 懲戒解雇じゃ、  どこも雇っちゃくれねぇ。おかげで俺達兄弟は  バラバラだ。どうせ堕ちていくなら、てめぇも  道連れだ。覚悟しろ糞野朗ぁぁぁっ!」 と、力の限りもがいてドジャーの拘束から逃れようと するが、ドジャーの羽交い締めはキレイにキマっていて ビクともしない。 「くそっ、離せ! ぶっ殺してやる」 「どうかお静かに。あなたご自身の為にも大人しく引き  下がられた方がよろしいですよ、デクスター様」 「うるさい。離せっ!」 デクスターはエディに対して思いつく限りの暴言を 吐き続け、半ばドジャーに引き摺られるよう、 別棟の中へと姿を消した。

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