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第17話 素顔

ゲイブがリーフの傷の手当をしている医務室の 戸口へエディがふらっと現れた。 それに気付いたリーフが”エディ”と、 半身起こそうとして、ゲイブに止められる。 「ダメですよ、もうしばらくは安静にしてなきゃ」 「……悪かった、リーフ……」 「何を今さら……貴方をお守りするのも俺の役目。  お役にたてて光栄です」 「ゲイブ、お前も悪かったな」 「いえ、俺も主を守るのが役目ですから……」 (だけどリーフ様は守ってやれなかった。  くそっ……) ゲイブはぐっと拳を握る。 「エ ―― 若」 「なんだ?」 「こっちはもう大丈夫ですが、今日の巡回は  念の為に休んで下さい」 「それこそ大丈夫だ。そろそろ真面目に見回りして  おかないと、親父からも雷が落ちそうだからな」 「ですが……」 「ゲイブ? リーフの事、頼んだ。念の為にあとで  ベネットを呼んで往診して貰ってくれ」 「わかりました」 「じゃ、行って来ます」 「「行ってらしゃいませ」」 リーフはエディの後姿を見送ると ゆっくり瞼を閉じた。 「少し……疲れた」 「休んで下さい。  しばらく私はここにいますんで」 「あ、ぁ……」 ***  ***  *** 夜半過ぎ。 リーフの熱がまた上がり出したとの、 連絡が入り、取り急ぎ屋敷へ急行。 エディはリーフの寝汗でベトついたパジャマを 脱がせて、お湯を絞ったタオルで汗ばんだ リーフの体を拭いてやる。 薄い胸板が苦し気にゼェゼェと上下する。 エディはリーフに新しいパジャマを着せた。 チッチッチッ ――――と時計の音だけが 部屋に響く。 少ししてはリーフのおでこに当てられた 熱冷却シートを貼り替えた。 「……」 「ん……なんだ?」 ハァハァと荒く息をつきながらリーフは うなされている。 「……さん……と、う、さん……」 ”お父さん……”  「リーフ……」 そう言って掛け布団を握るリーフの手を エディは上からぎゅっと握った。 リーフが薄目を開ける。 うっすらと誰かが自分の手を握っている事に 気づいた。 「お、父さん……?」 「……あぁ、そうだ」 リーフはほぅーっと息を吐き、 安心したように再び眠りにつく。 数時間後、ふとリーフは目を覚ました。 「そうだ。俺、夢で父さんと……」 リーフは自分の手が温かい小さな手に 包み込まれていることに気づく。 昨日のスーツ姿のまま、リーフの手を握り 椅子に座ってベッドに伏せって眠っているエディ。 リーフは握られていない方の手で、 そっとエディの髪を撫でた。 レースのカーテンから優しく注ぐ朝の日差しに 包まれ、エディが目を覚ました。 「……オハヨ」 エディはすぐさまリーフのおでこの熱冷却シートを 剥がして、そのおでこへ自分のおでこをあてがって 熱を診た。 「良かった……熱、下がったぞ」 「そっか、エディが寝ずの看病してくれたおかげ  だね。ありがと」 「寝ずの看病だなんて大袈裟だ。お前のおかげで俺は  命を救われた。こんな事くらいしか出来ないのが  申し訳ない」 エディの手首へ伸ばしたリーフの手が、 華奢な指に五指を絡めて繋がれ、 そのまままだやや青ざめている頬に当てられた。 「ね、エディ、もう少し……ここにいてくれる?  もう少しでいいから……」 どんな苦境にも臨機応変に応じてきたリーフが、 どこか弱気になっていることが感じられ、 されるがままに ”もちろんだ” と答えた。 「ごめんね……明日には、ちゃんと元気になるから……  心配、せんで……」 また眠気が襲ってきたのだろうか。  リーフは、瞼が自然に下がろうとするままに任せた。 その時、目を閉じた己の唇に、 何か、覚えのある柔らかくて甘いものが 押し付けられたのを感じて思わずぴくっと 反応したが、目を開けることはしなかった。 代わりに、覆いかぶさる頭の後ろに手を回して、 もっとと促すように力をこめると、 角度を変えてまた唇が重ねられた。 眠気もなりを潜めてしまい、 グミのような柔らかな肉を楽しんで、 そっと舌を差し入れ、 不意に逃げを見せるエディの舌を絡めとる。  疲労で、体温が下がっているのか、 エディの口腔は、ひどく熱く感じられた。 やがてリーフは、艶めいた吐息とともに、 ゆっくりとその唇を離した。 「また、熱が上がるぞ」 「そしたら、また、エディが看病してくれるでしょ」 「あぁ、よろこんで」 ***  ***  *** 玄関ホールの大時計が午前0時を打っている。 薄暗がりの中、今夜何十回目かの 寝返りをうつリーフ。 羊が63匹、羊が64匹、羊が65匹、羊が………… (´Д`|||) ドヨーン あぁっ、もうっ。いくら羊を数えてみても頭の中が 羊だらけに なっていくだけで睡魔は一向に 襲ってこない! 参ったなぁ―― こんな事なら昼寝なんかしなきゃ良かった…… イライラしてもう1度寝返りをうった時、 何気に瞼を開けたら薄暗がりの中、 隣のベッドで心配気にリーフの様子を伺っていた エディと バッチリ視線がかち合ってしまった。 (エディはリーフが自分を庇って傷ついた日から  ずっと、リーフの休む病室に泊まりこみで看病  しているのだ) う”っ!……これは、かなり気まずい。 「……眠れねぇのか?」 「あ、ごめんね。起こしちゃったか」 「いいや、俺は閣議の間中ずっと寝てたからすっかり  目が冴えちまってさ」 「アハハハ ―― そっかぁ」 「……なぁ、リーフ? こっちにこないか?」 「えっ ――」 「ア、嫌なら無理にとは言わねぇけど」 「……いいの?」 「――は?」 「だから、そっち行っていい?」 「お ―― おぉ」 と、リーフのためのスペースを自分の傍らへ空ける。 リーフは自分のベッドからパッと抜けだして、 エディが空けてくれたスペースへ滑り込み、 エディへピタッと寄り添ってエディの腕枕で エディの匂いを思いきり吸い込み。 「あぁ、エディの匂い…………」 「えっ、臭うか? しっかりシャワーしたんだけどな」 「ううん、違う」 「あ?」 「何となく安心するってゆうか、落ち着ける匂い……」 「……そっかぁ」 リーフのおでこにそうっとキスを落として。 「おやすみ、リーフ」 「うん。おやすみエディ」 静かな夜はゆっくり更けてゆく。

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