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第19話 嵐の気配

それから、エディの周辺できな臭いゴタゴタが 起こり始める…… 始めのうちは 他愛のない”小競り合い”程度だった 衝突も回を増すごとにエスカレートしていき。 遂にこの日 ―― 「補佐! ビニー様、大変です!」 「どうした」 「ファビオがやられました!」 「なんだとっ?!」 ビニーはゲイブの部下だ。 そして今、問題となっている”ファビオ”なる人物は 宮廷諜報部の一級諜報員である。 宰相で諜報部の長官も兼任するゲイブの密命を受け、 *年前から隣の大国・モンゴラード連邦に潜入し 内偵を続けていた。 いつもはのほほんとして”虫一匹だって殺せない” ような男が、キレるとなにをするかわからない 狂犬のような危うい一面も持つファビオを、 なぜかビニーは気に入っている。 今日、西側の隣国・エンドア共和国の宰相補佐から とある親書を預かり、帰国する予定だった。 ファビオはパートナーのネロ少年と共に、 列車を待っていた所をあからさまにケンカを ふっかけられ刺されたという。 幸い同伴者の少年に怪我はなく、ファビオ自身も かすり傷で済んだが、目撃した宿屋の客引きに よると最初からファビオを狙っていたようだった らしい。 相手は4人組で、何処の組織にも属さぬ半グレだという 事まではわかっている。 いよいよ、ここまで手を出してきたか……。 「すいません、補佐。ヘマやっちまって」 「ネロにも大した事がなくて良かったじゃないか。  とりあえず今は安静にしてろ」 「それにしても、いきなり後ろから狙ってきやがったん  ですよ、あいつら」 「察するに ―― 連中の狙いは”親書”か……」 「ゲイブ様の指示通り、別便にしておいて正解  でしたね」 問題の親書は古来の方法、 ”白鳩便”という伝書鳩を使った配達で、既にエディの 元へ届いている。 「……ファビオ、もしかするとこの先、今のゴタゴタは  拡大するかも知れない」 「うへっ。となると ―― 戦争っすか。  なんか腕が鳴るなぁ」 「馬鹿言うんじゃない! 遊びじゃないんだ。  余計なマネはするなよ」 「ええー、俺だけ仲間外れですかぁ?」 「いいか、勝手な行動は絶対するな。これは命令だ」 「ういっす……」 診療所の一室で大人しく項垂れるファビオは、 お預けを食らった野良犬ようだ。 しかし、今は挑発に乗ってはまずい。 とりあえずゲイブの指示を仰ごうと、 ビニーは携帯を手に室を離れた。

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