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第8話
愛らしい笑顔で過去の話を持ち出すお前は、慰めようとしているのか、それとも意地が悪いのか。
最後に取っておいたポテトチップスをかじり。
「もっと、他に、隼人の料理が、欲しい」
空腹感は無いがねだる。
微笑みながら立ち上がったお前の背中を見て、ぼんやりと思い出す。失恋からの出逢いを。
* * * * *
雨降る夜。
ただ純粋に想っていた相手からのいきなりの拒絶にうちひしがれ、やけ酒を飲んだ日。
最後に入ったBARで出会ったのが最初だった。
「……わぁ、濡れ鼠。いらっしゃいませ、まずはタオルをお貸ししますね」
橙色の暖かく最低限を照らすライト。
微笑んだお前。
そういや、最初から口悪いな。
なにも喋る事が出来ないまま。
手渡されたタオルで、グチャグチャと髪の毛を拭いた。頭を濡らす雨水と一緒に、いままでの記憶も拭い取るように。
カウンターの上に散らばった雨粒を、お前は布巾で綺麗にしていく。タオルを被った俺は、その手をじっと見つめた。
「……真っ白い肌」
濡れ鼠の男の呟きが耳に入った。
「……遺伝です。白人の血が入ってるみたいで、日焼けとかしないんですよ」
何を飲まれます?
営業モードで対応する。
雨で酒の匂いも飛んでいるが浴びるように飲んでいるだろう。
もう一枚タオルを差し出した右手の薬指に収まる指輪が鈍く光った。
カウンターに頭を寝そべって。白く細い指元に輝く指輪にそっと触れて、指先で転がす。
「誰から貰ったの……金持ちのオトコ?」
怒られるかな? 上の人間を呼ばれて、追い出されるか?
しかし、視線を手から表情 に移すと、穏やかに微笑んでいる。白い肌が映える、黒曜石のような瞳で。
「ふふ、ないしょ。結構酔ってるね?おにいさん」
マスターから渡されただけの指輪は制服一部。そして「虫除け」だ。
ストレートグラスに氷を数個いれてレモン水を出す。
「当店のお酒を飲みたいなら、口のなかをすっきりしてからな」
なんだか面白くなってきて、出された水を勢い良く口に注ぎこむと。
「グッ……ゴホ、ゴホッ」
思い切り噎 せた。
「変な姿勢で、笑いながら一気飲みするから」
綺麗な店員さんも一緒に笑う。そして俺の口元を拭いながら、背中をさすってくれた。
あぁ、やっぱり楽しくなってきたな。
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