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第10話
特に会話を交わす事もなく、隼人とふたり、ゆったりホットワインを飲んでいると、ふわふわと意識が飛んでいった。
「……うきさん、洸樹さーん」
揺さぶられて意識がふっと戻ると。
「ここで眠っちゃうのは困ります。タクシー呼びましょうか?」
意地悪そうに笑う、綺麗な顔があった。
すやすやと眠る洸樹を起こし他の客と同じように対応する。
「洸樹さん、洸樹さーん」
起こしている間にマスターがタクシーを手配してくれた。
寝起きのまどろんだ顔にすこし可愛いと思った。
「……気付けにレモン100%ジュースショットでいきます?」
「ぅん……? やーだよ……」
揺り動かし起こそうとする、近付いた顔の紅い唇に、人差し指でそっと触れたのは。
性悪な口調を黙らせたかったからか。酔って寝惚けていたからか。
それとも単純に、触れたい欲が湧いたのか。
リアルな柔らかい感触に、また意識が戻った。
「……っ、…わるい」
呼吸が止まるかと思った。
「……ふ、童貞かよ」
「タクシー来たよ」
クスクス笑う隼人の声とマスターの涼やかな声でおもいっきり立ち上がった。
妙な恥じらいから、隼人の目は見ずに会計を済ますと。勢い良く出口への階段を登って、足を滑らせた。
「うわっ、と……」
壁に手を付いてバランスを取ると、ばさり、と肩にタオルが掛けられた。
「使って下さい。まだ濡れ鼠なんだし」
「あ、あぁ……ありがとう」
微笑む隼人にあたふたと礼を言い、出口の扉を開けた。
「また、お越しください」
マスターの声と手をふる隼人に頭を下げて、タクシーに乗るため濡れたコンクリートの階段をのぼった。
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