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第11話
狭い一人部屋の薄い布団に寝転がり。いつもより念入りに洗濯した、一枚のタオルを手に取る。
「どうしようかなぁ……」
タオルを顔に乗せて、独り言を呟く。
客へのサービスだと思えば、返しに行く必要もない。「返して下さいね」とも言われなかったのだし。
でも、あの店員の瞳の色や、一緒に飲んだホットワインの味や、そして指で触れた唇の感触が、いちいち蘇って。
「だー、くそっ」
寝れない。
酒の酔いも飛んでしまった。
ティーンズの初恋か。甘酸っぱいあれか。
自分の思考に悶え、落ち着くために煙草に火を着けた。
ふぅっ、とため息がてら煙草の煙を吐くと。
「雨が止むまで考えるか……」
また濡れ鼠にはなりたくないし。
そして翌々日、雨上がりの夜に、俺はまたあのBARへ向かった。
以前は気に留めなかったが、銀の鎖で揺れるドアプレートには【CHARME】とある。これが店名か。
さり気なく扉を開けると、
「おや、濡れ鼠くん」
マスターの声で俺はそう呼ばれた。
「ぬれ、ねずみ……」
最初に隼人に言われた気がするワードだった。
「隼人ならあと一時間でくるよ」
最初から目的が判っているように答えたマスターに閉口する。
「ふふ、いらっしゃいませ。お客様」
すこしおどけた言葉に無意識に入っていた肩の力が抜けた。
適当に頼んだカクテルをちびちび飲みながら、ぼんやりと考える。
ここに居るマスターにタオルを渡して、さっさとこの店から出れば良いのに。
俺はあいつにまた逢いたいのか? あの、口が悪い美形店員に。
「今夜のおすすめをどうぞ」
いつの間にか、空になったグラスが下げられていて。コトン、と違うカクテルが置かれた。
「メリー・ウィドウといってジンとオレンジビターズのカクテル」
カクテルの紹介をされても頭になんて入ってこない。
「……カクテル言葉は『もう一度素敵な恋を』。もしも、そうだったら頑張りな」
にこりと笑ったマスターは洸樹を残して店の奥の客のもとへと行った。
「……あ、いらっしゃいませ」
ニコリと笑った隼人がバックヤードから入れ替わるように出てきた。
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