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第13話
「俺はただの大学生バイト。料理は稜さん、マスターから教えてもらったけど、あの人もプロじゃないってきいた」クスクス笑う隼人は他の客のドルチェを仕上げながら洸樹と話をしていた。
「少し席はずすね」
出来上がったドルチェをマスターの前に座る男のもとへと運んでいった。
大学生、ってことは……俺とそんなに年齢 変わらないのか。
カクテルを飲み干すと、マスターと客と三人で喋る隼人の横顔を眺める。
酔ってないときに冷静に見ても、やはり美人だよな。
白い肌、黒い髪、黒曜石のような瞳。笑うとふんわりと睫毛が影を落とす。
ぼうっと見つめていると、マスターと目が合った。
クスリと笑い、隼人になにか耳打ちをする。目の前の客に見せる微笑みとは違う笑みで洸樹に手をふった。
「……?」
「……マスター、今度俺もその店連れていってくださいね」
隼人が釘を刺すように微笑んだ。
『熱視線だね?』
楽しそうなマスターの言葉に隼人は気づいていた視線を無視できなくなった。
美人なのは認めるが……洸樹がいままで付き合ってきた男とは違うタイプだ。
なんで惹かれてるんだろう。失恋して酒飲んで、いきなり出逢った美形だからか?
外側から魅力を探しても、見つからないよな。
「すいませーん、カクテルおかわりと……卵焼き、お願いしまーす」
今度は洸樹から隼人に手を振った。
「……、はぁい。では、失礼いたします」
マスターと客に挨拶をしてその場を辞した。
「あいにく、卵焼きは賄いだけの特別料理なんですよ」
釘を刺し、空になったグラスと皿を片付け、新しいカクテルと小皿をだした。
「ソルティードッグと卵焼き」
賄いだけ、と言っていたのでは?と洸樹が視線をあげる。
「欲しいひとにはあげます」
そんな言葉を返されて。
「どうも。でも、代金は幾らになるの?」
今度はちゃんと箸で卵焼きをかじる洸樹と目を合わせ、隼人は囁く。
「これからずっとサービスです。そんなに、気に入ってくれたのなら」
参ったな。もう俺はこのBARの常連客か。
クスクスと笑い会う隼人と洸樹を見ていた。
「……これは、新しい恋の予感かな?」
「ふふ、どうでしょうねぇ」
マスターの喰えない微笑みが祝福なのを客は理解している。
「こわいこわい」
大人の会話は店の片隅で消えていった。
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