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第14話
「お前の作る、他の料理も食いたいな」
「また、違うメニュー出しましょうか?」
隼人の問いに、洸樹はチーズを手に取り、手を振った。
「違う、違う。こういうつまみじゃなくてさ。もっとボリュームあるやつ。でも、ここでは出してないよな〜、どっか別の場所で作ってくれない?」
さて、軽いノリの誘いに隼人はどう出るか? 今度こそ「違う店に行け」とマスターから追い出されるか?
「……俺の仕事終わりまで待ってるなら、作るけど?」
悪戯っ子の笑みを浮かべた隼人が顔を近づけて囁いた。
「……え」
「マスターはそういうの気にしないからへーき。それに、洸樹さんちゃんとしたもの食べた方がいいしね」
力仕事なのにお酒ばっかりじゃ身体に悪いよ?と笑われた。
どうする? 隼人の誘いにのるか? 誘いといっても、口説いたのは俺からか?
洸樹の心に迷いの渦が湧き出て。
その渦に巻き込まれるように、近付いてきた隼人の頬を、そっと手でなぞった。
「あと、どれくらい待てばいいの」
そして洸樹は、自ら渦の中に落ちていった。
頬をくすぐる男の指にクスリと笑う。
「今来たとこだからねぇ。あと4時間だけど、待てる?」
20時開店の【CHARME】は翌朝の5時まで営業している。時計を確認すると21時少し過ぎ。
「まぁ、あっという間だよ」
よく分からない返事をして。洸樹はすっと頬から手を離す。
「じゃあまた、酔い潰れないようにね」
クスクス笑いながら、隼人はまたマスターの方へと去った。
洸樹は酒豪ではないが、酒が弱いわけでもない。カクテルをちびちび飲むくらいなら大丈夫だ。
隼人と少し話したあと、マスターが洸樹のもとへ来た。
「飲み放題プランがあるから、そっちにしておくよ。ゆっくりしていきな」
チェイサー用のレモン水を出したマスターとクラシカルなメニュー表を見比べた。
「裏メニューだよ」
楽しんでいきな。と笑い、マスターは奥に入っていった。
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