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第16話
なんでこんなよく知らない奴と、同棲ごっこのような、新婚おままごとみたいな事をしてるのやら。
嬉しいのか、楽しいのかもよく分からない。知らない国に迷い込んだような、妙な不安感も湧いてくる。
「鶏肉とか? よく分かんねー。あと、隼人もさぁ、日本酒飲む?」
「……飲めるけど……日本酒にするなら料理考えるよ」
日本酒に合う料理の方がいい。自分が。
「豚汁と肉ね。鶏肉ならささ身と梅肉と大葉でさっぱりと、むね肉ソテーにするか」
お徳用の量のある肉をカゴに入れる。木綿豆腐と一緒に絹豆腐を買って白和え作ろうか。
たくさん食べそうだしなぁ。洸樹を見て笑った。
妙な不安感はまだ背後にいる。
「BARでバイトしてるだけなのに、色々と詳しいよなぁ」
隼人の笑顔に釣られて洸樹も笑う。
「マスターに仕込まれたんだよ」
「ふぅん……あのひとの家で、仕事終わりに仕込まれた、とか?」
嫉妬かよ。みっともない質問に、心の中で自分の頭をごつん、と殴る。
「……あの人は、男も女も喰うけど俺とはそういう関係じゃない。ついでにひとり暮らししてるって言ったら食育のついでにって料理教えてくれただけ。それに今はちょっと大変だから、料理も習えてないんだよね……」
親よりも親らしいことをしてくれるマスターになついている自覚はある。
バツの悪そうな顔をした洸樹の顔にクスクスと笑った。
「食育、ねぇ。面倒見良さそうなひとだもんなー」
酒のコーナーに着いて。並ぶ日本酒のラベルを見比べる。
「良さそうなひと、じゃなく、良いひと、だよ」
しみじみ語る隼人自身は、マスターに惹かれているのか? 胸がちくり、と痛んで、適当に掴んだ日本酒ボトルをカゴに入れた。
「全部でこれくらいか? ここの代金は俺が払う。リクエストしたのは俺からだし」
「半分は出す。野菜は数日分だし、日本酒はこっちの方が好き」
有名な大吟醸の瓶を入れた。
「……だから、俺も半分は払わせろ」
にんまりと笑い会計へと向かった。
スーパーを出て、夜道をふたりで歩く。
「俺が料理してる間に、風呂でも入ってる?」
隼人からのそんな言葉に、たまらず足を止めた。
「あのなぁ……からかってんのか? それとも本気で誘ってんのか? お前がふざけてからかってるなら、俺はここで帰るぞ」
数歩進んでいた隼人は振り返って笑う。
「じゃあ、本気で誘ってるんだとしたら?」
月明かりに照らされた隼人は消えそうな妖しさがあり、思わず腕を掴んだ。
「……据え膳食わぬは男の恥っていうな……」
深く息を吐き出し、少し笑った。
「……ぁーあれだ。とりあえず、飯くわせろ」
からかってはいない。そして、本気というには曖昧な答え。それでも惹かれた。
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