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第17話
隼人の家は、予想通りきちんと片付いていた。
「座って待っててよ、水でも飲んでさ。汗も掻いたんじゃない?」
ソファーまで案内されて、ミネラルウォーターをことん、と洸樹の眼前に置くと。
「よしっ、と……」
お礼の一言も言えない内に、隼人はキッチンの方へ消えてしまった。
促されるままミネラルウォーターに口をつけながらぐるりと部屋を見回す。
ソファーとテーブル、テレビ、チェストと本棚、CDの棚があった。
「生活温度の無い部屋……」
生活している気配はあるが、温度がない部屋。隼人の内側を覗いた気がした。
だんだんと和食の良い香りが漂ってきた。懐かしいような、憧れていたような。
でも、これから出される料理を食ったら、俺たちはどうなるんだ?
流れでいえば、セックスするのが普通だよな。隼人からは誘われているのだし。それに対する洸樹の気持ちは。
「嫌、ではねーよな……」
「……お待ちどうさま。なにが?」
トマトの煮浸し、千切り大葉と梅肉がのったささ身が日本酒と共に先に出てきた。
「ごはんは今蒸らしてるし、豚汁はもう少し煮ないと美味しくない。むね肉は今焼いているから先にこっちな」
客箸なんてないから割り箸な。とコンビニの割り箸を出された。
程よく冷えた日本酒は徳利に入り、お猪口が2つ。
食器にも生活温度は無い。違う店に入ったみたいだな。しかしこいつ、友人や恋人を家に招いたりしないのかな。
「うん、美味い」
色々乗った鶏肉を一口食べて呟くと。
「トマトも食べてみてよ」
煮浸しを盛った皿を押してきたので。
「隼人も座って酒飲んだら食べる」
そう言って皿を押し戻すと。
「寂しがりやのガキみてー」
また笑われたが、BARでの笑みとは違う雰囲気だ。
「そろそろかな。ソテーと豚汁も持ってくるよ。俺はごはんあとにするけど、どうする?」
もくもくと食べる洸樹に声をかける。
モグモグと咀嚼するのがリスみたいと言ったら怒るだろうか。
「んー……一緒に酒飲みながら、考える」
「なんだそれ。じゃあ、ごはんはあとにするんだね」
隼人のからかい言葉に、日本酒をぐいっと流し込む。
「ほら、むね肉のソテーと、洸樹リクエストの豚汁。あと、漬物もどうぞ」
大盛りの料理を、次々と並べて。隼人は俺の隣に腰掛けた。
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