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第28話

「ふぅ、腹一杯」 ごろん、と隼人の膝に頭を乗せて目を瞑ると。 「なんだよ、甘える大型犬」 上からクスクスと笑い声が聞こえる。 「お前にとって……俺は犬かよ……」 ウトウトしながら呟くと。 「それはまだ、何とも言えないなぁ……」 ゆっくりと身体を撫でながら言われて。思わず腰回りをぎゅっと抱き締めた。 「なに、本当に甘えたいのか?」 まどろむ男の頭を撫でる。 「んーぅ……」 眠さが勝っているのか言葉にならない洸樹。 「ふふ、かわいいなぁ」 そのまま俺はソファーで眠りに落ちた。 隼人はいつの間にかベッドルームに移っていたが。 薄手の布団はちゃんと俺に掛けて。 「うん……んぅん?」 差し込む朝日に眼を覚ますと、和食の良い香りが漂っていた。 「……あ、おはよ。ソファーから動かせなくてそのままになったけど身体大丈夫?」 しょうが焼きを焼きながら隼人が声をかけた。 「んー……まぁ俺、カラダは丈夫だしな。それより腹減った……昨日は結構、体力勝負だったし」 台所に向かって声を掛けると、隼人がこっちへやって来た。昨夜と変わらぬ笑顔で。 「ほら、ミネラルウォーター」 コップを手渡され、起き上がりながら受け取る。 「隼人の身体は大丈夫なのかよ?」 あんなの慣れたもんだろうが。念の為に訊いてから、冷たい水をぐいっと飲み干した。 「へーき。まぁ、久しぶりだったけどね。今日は午後から大学だしもう一回寝るよ」 半年くらいフリーだな。と思いながらたたんだ洸樹の服を渡した。 「ほら、着替えて顔洗ったらご飯にしよう」 「はいはーい、っと」 もぞもぞと着替えはじめた。 久しぶり? 久しぶりだったのか。本当か嘘かは分からんし、それを追求しても仕方ないけど。 ただ猫かぶってるだけか? 俺に好かれるために? そんな事する必要は、隼人には無い。もっと良いオトコ達が、周りにウヨウヨ寄ってくるだろう。 「半年はいないから、久しぶりだった。思った以上に気持ちよかったよ」 クスクスと笑いながら洸樹を洗面所へと向かわせた。 「それはありがたい。じゃあさ、またやっていいの? あぁ、今すぐじゃないよ、また後日にでもさ」 背中を押されながら問う。隼人の表情(かお)は見ないまま。 俺の背中に触れるこの身体にまた触れたい。 またあの掠れた喘ぎ声を聴いて、熱い吐息を感じたい。 それは洸樹の本気だった。 「……いいよ。ただし、誘うならBARに来て口説いてくれよ」 本気なのか、遊びなのかは別にどっちでもいい。ただ、直接連絡をとりにくくさせるのは経験済みだった。 やはり隼人にとって、俺は常連客のひとりか? そう思って苦笑したが、それを尋ねることはしなかった。 ソファーに戻ると、テーブルに朝食の献立が並んでいく。 そしてまた、ふたり寄り添って座るのを待って。 「いっただきまーす」 子供っぽく大声で挨拶をした洸樹に、隼人は笑いながら「召し上がれ」と冗談ぽく返した。

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