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第31話
「……ふーん」
引っ越す、という単語に反応して、隼人の身体を弄んでいた手を止める。
それは遠回しに、楽しかったけどもうお終い、という洸樹への別れの言葉か?
「だから、洸樹に合鍵を渡そうと思うんだけど、どうかな?」
悲観的な洸樹の声に頭を撫でた。
「合鍵? 良いのかよ、そんなもん貰っても」
戸惑いながら問い掛けた。
「大体、なんでいきなり引っ越すんだよ? 仕事も変えるのか?」
馴染みの職場に、ここも住みやすそうなマンションなのに。
洸樹の言葉に一瞬黙った。
「……仕事は、かえないよ……」
少しだけ違和感のある微笑みに洸樹はじっと隼人を見つめた。
言いたくないのか? 言えない事情なのか?
「まぁ、引っ越す理由は隼人個人の問題だし、別にいいけどさ」
さり気なく質問を引っ込める。
「そしたらなんで俺に、合鍵渡してくれるんだよ?」
これははっきり聞きたかった。洸樹自身、嬉しいのか不安なのか分からなくなるから。
「……洸樹だから、かな……」
白い指が洸樹の首をくすぐり額を肩に押し付けた。
まるで、なにかから目を背けるように。
なんだその答え。
だけど、また質問を重ねる事は出来ずに。
隼人の細い顎を指で持ち上げると、紅い唇を洸樹の唇で塞いだ。
「……っん、ふぅ……」
力強く舌を絡めていくと出てくる、切なそうな吐息に、収まっていた内側の温度がカッと再熱した。
呼吸が浅くなったのを誤魔化せただろうか。
自分でもよくわからない。ただ「洸樹だから」鍵を渡そうと思ったんだ。
熱が上がる身体と思考に流されながら洸樹のキスを楽しんだ。
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