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第33話

「危険な香り、ねぇ……」 どういう意味だ? 首を傾げてグラスを見つめた。 すると、ぽん、と肩に手の平が置かれて。 誰の手の平か分かっていた洸樹は、わざと振り向かなかった。 「おまたせ。すねちゃった?洸樹」 クスクスと隼人が笑っている。 「あちらはいいの?」 「はい、あとはマスターですよー」 バトンタッチ。とカウンターへ入り洸樹の前に落ち着いた。 危険な香りのカクテルを隼人の眼前で飲み干す。 「合鍵渡したんだから、家に行っててもよかったのに」 そんな隼人の言葉に、 「まだ引っ越しの手伝いでしか行った事無いのに、いきなり行けるかよ」 本音を出した洸樹に、隼人は顔を近づけてくる。 「じゃあ、徐々に慣らしていこうか」 クスクスと笑う隼人から微かにレモンの香りがした。 「あの鍵はカードキーもかねてるから、なくしたらダメだからね」 少し形の変わっている鍵の理由を知った。 「明後日、店が休みなんだ」 「休み? だから何だよ」 ぐいっと顔を寄せてきた隼人から遠ざかる事も出来ず。ふたりはキス寸前に見えるんじゃないか? 洸樹はそんな心配をしていた。 「オンナ心も隼人の心も、ぜーんぶ分かんねーよ。誘うならはっきり誘えっ!」 自棄になって小声で怒鳴ると、隼人の唇に洸樹の唇を軽く当てた。 「ふふ、じゃあストレートに。夕飯でも食べに来てついでに泊まりなよ」 クスクスと笑う隼人はいつもと変わらないように見えた。 「そーだなぁ、また美味いもん食いたいし」 そう応えて、隼人とふたりでBARから帰るとき。またマスターは洸樹に「あの子を頼んだよ」と視線で頼んだ。 「買い物していくのか?」 「そうだね、まだ調味料も揃ってないし……なにが食べたい?」 「腹減ってるし、コックに任せるよ」 素っ気なく返すと、隼人は洸樹の腕を掴んで。 「やっぱり拗ねてるんじゃないか」 意地悪そうに笑った。

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