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第37話

洸樹の掌や唇が触れる場所から体温が戻ってくる。 耳元で甘く優しく囁かれた言葉。今日は少しだけ、違う。 「……ヤらずに、抱っこしてほしい……んだけど……」 抱っこ、という言葉に少しずつ恥ずかしさで声が小さくなる。 「あっ、もしも嫌なら、帰っても……」 俯きながら、小声で呟く隼人の顎を指で持ち上げて。唇で言葉を塞いだ。 「んっ……」 しばらくのキスの後。 「抱っこなら……俺もしたいよ」 少しの距離を離した唇で、洸樹は呟いた。 洸樹の答えに、泣きそうになった。 「……おれ、めんどくさいよきっと」 言えない過去の方が多い。 幸せになれないとどこかで思っていた。 甘く、優しい、くすぐったい愛情。 「そんなの、決めつけんなよ……」 幾度か軽いキスをして、合間に応える。 「それとも、めんどうだから、離れろっていうのか?」 頬を擦り寄せて、ゆっくり強く抱き締めた。 「……はな、れないで……ほしいけど……」 洸樹の抱き締める力にどこか安堵する。 「……おれには、選ぶ権利はないから……」 すがるように洸樹の服を握りしめた。揺らぐ声は泣きそうな声に似ていた。 泣いているのか? 震える隼人を抱き締めながら、半ば強引にベッドルームに移ると、どさり、とふたりの身体を柔らかなベッドに沈める。 そのままずっと離れずに、洸樹は隼人を抱いた。 なにも言わずに。たまに震える隼人の背中をさすったり、そっと髪の毛から額を撫でた。 涙はでない。 でも温かい腕に、頭を撫でる掌に目蓋をとじてされるがままにする。 他人の体温は、こんなに落ち着くものなのか……。 隼人が眠りにつくまで、なんとなく洸樹は眠れなかった。 だがそれは、不安な隼人に落ち着かない訳ではなく。 洸樹も隼人と同じく、安堵に包まれていた。なにも考えず、ただふたりの体温を感じていた。

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