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Ⅰ章 優しいその指が……⑥
ジャラン
鎖が鳴る。
「これはっ……」
銀の懐中時計にシャンデリアの火が落ちる。
「ご父君の……持ち物ですか?」
「俺の物だ」
「なぜッ」
琥珀が揺らぐ。
初めてだ。語彙を荒げたのは。
尻尾を出せ。
化けの皮を剥いでやる。
「先程の話だが、お前を買おう。幾らだ?」
「黙れ、華族が俺に触るなッ」
カラランッ
懐中時計が甲高い音を立てた。
激昂した青年が、手帳ごと銀時計を叩き落とす。
カランランッ
……時計が止まった時間を戻した瞬間だった。
「何をしているッ」
聲 が…………
聞こえた。
俺の声でも
青年の声でもない、聲
階下を見下ろす漆黒の宝玉
一瞬で鼓動が絡め取られた。
「鷹緒さん!」
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