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Ⅱ章 時こそ今は花は香炉に打薫じ③

俺達は交わってはいけない。 兄弟だから 満忠様のお気持ちを裏切れない。 「でも俺はッ」 お前を待ちたかった。 たった一度だけの契りを 真珠として、どうか 兄じゃない真珠として 許されざる契りを結びたかった。 そうしたら生きていける。 お前は俺を忘れ、過去の俺を忘れて 俺は、もう逢う事もないお前の幸せを想って 『真珠』になれる。 この恋は、人魚の恋のように海の泡となって消えるけど 一夜の楔が『真珠』を生かしてくれるよ。 お前との偽りの愛が、俺を…… 偽りのない、ほんとうの俺に変えてくれた。 ありがとう、凌 ごめん、凌 愛している、凌 「この家を失いたくなかったんだ」 華族制度が崩壊し、特権は廃止され、課せられた税が払えず土地は全て失った。 でも、この家だけはっ! 「この家がなくなったら、お前は帰って来てくれない」 どうしても守りたかった。 春を売る男娼になってでも 娼館の主人になってでも お前を待ち続けた…… 俺を覚えていてくれて、ありがとう こんな姿になって、ごめん 俺の願いは叶ったから お前は俺を忘れて、お前自身の希望の道を歩んでほしい 一夜の夢の館を出たら、俺達は他人だ。 さようなら 初恋の人……… 髪に触れた手が、肩を掴んで、俺を振り向かせる。 呼吸が止まる。 強引な体温が俺を包んだ。 「俺達はとっくに家族になってたんですね」 強く 熱い 逞しい(かいな) 「ただいま、鷹緒さん……」 涙ごと抱きしめる凌の腕の中 俺はようやく『鷹緒』になれた……

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