21 / 25

Ⅱ章 時こそ今は花は香炉に打薫じ⑨

蝉が啼いている。 焦げ臭い煙が黄昏の空に昇る。 鎮火された屋敷は、宵の帳に黒い骨組みだけを(のこ)していた。 脱け殻の屋敷に響く残滓の音色が、蝉の声ようだ。 ジィジィと冷たい夏に蝉が啼いている。 「警察の実況見聞に行ってきます」 本来ならば俺が出向くべきところを、藤野を継いだ鷹緒が申し出てくれた。 「……勘違いするな」 俺には声の届かない場所で、鷹緒と凌がすれ違う。 「『俺の物だ』とお前が断言した時に、気づいていたんだよ」 だから、この時計を父様に触れさせたくなかった。 「いつか、お前から父様を奪う」 すれ違い様 手渡された破片が、再び運命を廻す

ともだちにシェアしよう!