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巽んちってマンションの角部屋でシンプルでそれなりに片付いてて、当然なんだけど、巽の匂いでどこもいっぱいだった。 玄関にお邪魔した時点で妙にどきどきした。 ダイニングテーブルに着くよう言われて、すっげーぎこちない足取りで片づいた部屋の中移動して、イスの上でもじもじ固まっていたら。 ばさぁっ あからさまに冷て~~かんじで数枚のプリントを目の前に放られた。 「とりあえずそれ暗記しろ、日本史」 んんんん? わざわざ巽んちに来て、歴史の暗記、ですか? もっとこう、向かい合って親切丁寧に教えてくれるって、俺、そう思ってたんだけど? 巽はちょこっと離れた二人掛けの座椅子に落ち着いてノートパソコンを開くと自分の作業を黙々と始めた。 そうなると俺も暗記を始めるしかない、読みづらい漢字ばっかの日本史プリントとにらめっこ。 でも俺って集中力ないんだよねー。 初めて来る巽のお部屋、どんなものがあるのかなぁって、きょろきょろしていたら。 「集中しろ、バカが」 ちょっとちょっとちょっと? 今の「バカ」さ、ほんっとーに心込めて心の底から「バカ」って言わなかった? てかなんか巽冷てーんですけど。 久々に気合入れて女装して、久々に遅刻しちゃったこと、怒ってるのかな? そういえばおにゅーのシュシュにも気づいてくれない……いや、さすがに服ならまだしも、それはムリあるか。 だけどこれなくない? 暗記なんて自分ちでもできるじゃん、ここでしかできないこと、もっとあるはずじゃん。 もぞもぞと立ち上がった俺は巽へ近寄った。 巽はカチャカチャカチャカチャ文字を打っていて、俺のこと、見ようとしない。 「……巽さん」 「覚えたのかよ」 「いや、えっと……あのさ、暗記とかって……家でもできるよね?」 巽、シカト。 俺は何となく手にしていたプリントを意味もなく持ち替えたりして、一生けんめー、続ける。 「俺、数学とか……生物とか……あ、あと現代文と古典……それから世界史と英語もわかんなくって」 「ほぼ全部じゃねぇか」 「う、うん……ねぇ、ちゃんと教えて……?」 巽、再び、シカト。 うう、俺めげそう、なんかもう帰りたい。 あ、でも、言ってみよっかな、あれ。 一回、巽のこと、そう呼んでみたかったんだよなー。 「……巽センセイ……」 結果、そんな呼びかけが巽のやるきすいっちをガチ押ししちゃいました。

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