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「それで、お前、名前は」 「あ、コーイチ、です」 「俺は巽だ」 「巽……さん?」 「ああ、コーイチ」 だだっ広い荒野の外れ。 小高い丘、おうちに改造した洞窟アジトを根城にして、その人は、巽は、少数精鋭盗賊団を率いて荒野を移動中の金持ちを襲っては金品を奪ってるそーだ。 顔にぐるぐる巻いていたターバンは外して、敵キャラみたいな黒ずくめの格好で。 けっこー涼しい快適広々な洞窟アジトの奥の間。 ゴージャスな毛皮上で寛ぐ巽。 その前で解れ気味なドレスの裾をふわりと広げ、煉瓦が敷き詰められた床に座り込む、骨はどこも折れてなかった、打ち身だけで済んだ、手錠つきの俺。 「手錠の鍵は見つからなかった、あのチビデブが持ってるのかもしれねぇな、逃がす前に確認すべきだった」 あ、死んでないんだ、キモ金持ち。 外見的に、巽、絶対殺すマンなのかと、てっきり、てっきり。 「そのうち錆びて自然と外れんだろ」 えーーーーー。 「なんだ、文句あんのか」 「あわわわ、ない、ないです」 ていうか俺どーなるの? 「あの、えっと、それで」 ぐーーーー! 「ぎゃあっ!」 そういえば俺こっちに来てからろくなもの食べてねー。 かぴかぴのパンとか、チーズのはしっことか……ネズミ扱いかよ。 ぐーーーーーーーーーー!! あせあせあわあわしていたら、巽、笑った。 あ、やばい。 また胸きゅんキタ。 「食えよ、コーイチ」 あせあせあわあわきゅんきゅんしていた俺の前にコトリと置かれたお皿。 かりかりベーコンとかソーセージとか皮つきジャガイモとかつやつやした果物がいっぱいのっていた。 わーうまそー! 「へっ!?」 真正面に座っていた巽が立ち上がったかと思うと……どっからいつの間に取り出したのか、小型ナイフを空中でぱしっと持ち替えるなり俺の真横に。 え、なにこわい、どうしよ、もしかして「いただきます」って言わなかったからキレちゃった? 「い……っいいいただきます!」 「食いづれぇだろ」 「!!」 巽、きれーな装飾つきの武器ナイフでソーセージを一口サイズに切って俺に渡してくれた、うそ、なにこのイイ意味ギャップ、胸きゅん連発しちゃうんですけど。 でも、手錠つきで食べるなんて初めてで。 俺、ぽろって、ソーセージ落としちゃった。 そしたら、巽、俺の背後にまた移動してきたかと思うと、後ろから抱きしめるみたいにして、餌付けするみたいに……俺にごはんを食べさせてくれた。 おいしそーなのに味がぜんっぜんわからない。 爆走する胸きゅん感に目が回りそーだ。 異世界でほもになりました、俺。

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