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「……ふぇぇ……」
「泣きたいのはこっちだ」
「ふぇぇぇぇ……」
「あのなぁ」
さっきまでの甘々な気持ちはどこへやら。
俺はソファの隅っこで気持ち悪いくらいどんより項垂れていた。
オトナ巽は俺が女装男子だってことにすぐに気が付いた。
だから、てっきり……この高校生巽も俺が男だってわかってて、その上で、こーやって……一緒にいてくれてるのかと思ってた。
コイツ気づいてなかったんだってさ。
男だって知って、口、ゴシゴシするような奴なんだってさ。
チクショー、さっきまでの俺のどきどきわくわくを返せ、こんにゃろ。
「もう帰っていーよ……俺、ここに泊まっから」
「制服でかよ?」
「なんだよ、もー興味ないんだろ……ウガイでもして帰ればぁ……」
「そのナリで一人でカラオケい続けるって危ねぇだろ」
優しくすんなよぉ。
「そんな傷ついたとか。悪い」
「あーもー、いいってば……」
「でも。こっちだってショック受けてっから」
「……あ、そ」
「最初が男とか考えてもみなかったし」
「……あ、そ……………………最初って、なにが?」
「だから、あれ、初キス」
「初キス?」
「いちいち復唱すんな」
「え、あ、え、巽、うそ」
嘘だ、あの肉食おらおら巽が……高校までキス経験なし?
ちょっと待て。
キス経験なしってことは、つまり、アッチの方も……?
「まさか巽は童貞クンですか?」
「悪ぃかよ」
「ウソでしょ」
「ウソじゃねぇよ」
「だってあの、肉食おらおら……巽みたいなコが高校生にもなって童貞って、ちょっと、ありえな、」
「高校生じゃねぇけど」
「えっっ」
「中三だけど」
「えっっ!」
ちゅちゅちゅっ中学生?
気持ちを落ち着かせるためトイレに立った俺。
外見的にてっきり高校生かと思いきや、まだ中学生、その事実に頭クラクラ。
そっか、中学生か、しかも初キスか……それだったら……ゴシゴシしちゃうかもしんないな。
でもやっぱ淋しい。
どの巽にも好かれたかった、俺。
男女兼用トイレを出て部屋へ向かっていたら、今度はうん、明らかに年上だとわかるチャラやろー二人と通路で擦れ違った。
と、思ったら。
腕を掴まれた。
いっしょに歌お、だって、一曲だけでいーから、だって。
えろい魂胆バレバレだ。
「彼氏いるから」と言っても離してくれない、あー腕痛ぇ、ずるずる引き摺られてく、あーもー、大声出す三秒前だぞコレ、さーん、にー、いーち、
「おい」
その瞬間。
オトナ巽と変わらない鋭い声が俺の鼓膜をビンビン震わせた……。
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