涙が止まんない。 なんでそんなこと言うの、巽？ 「わかったな、コーイチ」 「いらっしゃいませー」 途切れることなくお客さんが行き来する駅ビル、３階フロア、メンズとウィメンズを取り扱うセレクトショップ。 ちょうど常連さんのレジを済ませて手が空いていた俺は、スマホ片手にきょろきょろ店内を見回しているお一人女子にさり気なく近寄った。 「何かお探しですか？」 「あっ、えっと、ここのブログ見て来たんですけど」 「わぁ、ありがとうございます」 「このコが着てる、コレ、すごくカワイイと思って」 「あーそれですね、そのピンクは完売しちゃったんですが」 「えー」 「イエローとグレーとグリーンはありますよ、ほら、こちらですね」 「……あれ？」 「はい？」 「このコ、は、もしかして、え、あれれ？」 スマホと俺を必死になって見比べているお客さんに俺はにっこり笑いかけた。 「ハイ、そのコは俺です」 高校卒業した俺は大学には進まないでアパレルの販売員になった。 最初の店は経営方針がちょっと受け入れられなくて、一人のお客様に複数で寄って集ってアレコレ買わせるのがコレちょっとムリ、で、試用期間終了と同時に辞めた、で、今はここで契約社員として働いている。 基本、店で女装はしてません。 でも店長や先輩スタッフと何気なくおしゃべりしてた時に女装の話をしたら、イイ意味で面白がってくれて、ブログにＵＰする新商品紹介のモデルをやらされて。 そしたら売り上げＵＰしたんだよ、うひょー。 ノルマはあるけど接客楽しい、店頭のディスプレイすげー面白い、それが売れたら最高に嬉しい。 この道に進んでよかった、俺。