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「ねぇねぇ! これでいいかなっ? おかしくねっ?」
いきなり電話で呼び出されて俺んちにやってきた巽、ドアを開けるなりしかめっ面になった。
「なんだいきなり」
「これ! 明日着ていく服!」
「いいんじゃねぇのか」
「ちゃんと見てよぉ」
「女装じゃないんだな」
「TPOはわきまえてマス」
土曜日の夜十時過ぎ。
遅番シフトの勤務を終えて夕食を軽く済ませていた俺は巽を出迎えた。
巽んちより狭いワンルームアパートの我が家。
ベッドや二人掛けソファどころか床にまでとっ散らかった服の数々、その一つを畳もうと巽が手を伸ばし、ぴたりと止まった。
「まさかお前、服を見てもらうためだけに俺を呼び出したのか」
「テヘヘ」
「携帯で撮って送れば済む話だろうが」
ジャケットを着たままの巽が服を退かしてソファに座り、俺は手にしていた分の服をハンガーにかけて壁際に引っ掛け、すぐ隣にぼふっと着地した。
「コーヒー飲む?」
「いや、すぐに出る」
「わかった」
「明日、十時に迎えにくるからな」
「……わかった」
「今から緊張してんじゃねぇ、コーイチ」
「……巽は緊張しなかった?」
「……ああ、あの時か」
そういえば緊張したな。
「でしょ」
巽も同じだったって、そうわかって、俺は一安心して大好きな体育教師にひっついた。
はぁ、あったかい。
あ、テレビ、つけっぱだった。
動物の感動話かぁ。
ペット飼ったことないからピンとこないんだよなぁ。
「飼い主の人、すげー泣いてるね」
「そうだな」
「当たり前かぁ、大事にしてたコがいきなりいなくなるんだもんね」
「なぁ、コーイチ」
「んー?」
「俺がお前より先に死ぬことは覚悟しておけ」
涙が止まんない。
なんでそんなこと言うの、巽?
「わかったな、コーイチ」
「う~~……」
ソファから退かした服を畳んでいた巽、ティッシュケースを俺の膝上にぽんっと置いた。
「じゃあ、そろそろ行く」
そりゃあ巽は俺より一回り年上だけど、すげー先の話だし、そりゃあ覚悟はいずれ必要だと思うけど。
明日のことでいっぱいいっぱいな俺に今言う台詞かなぁ?
……それとも、今だからこそ?
……ねぇ、巽?
俺はティッシュケースを抱えたまま玄関に向かう巽にぴったりついていった。
立ったまま靴を履く巽の後ろ姿を見つめる。
ティッシュで涙や鼻水をゴシゴシしつつ、その後ろ姿に言ってやった。
「でも、わかんないよ?」
「何がだ」
「病気や事故で巽より先に俺が死んじゃうかもよ?」
そんな俺の言葉に、巽は、ぐるりと振り返った……。
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