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「ただいま」
その日、巽は九時過ぎに帰ってきた。
小市には先に晩ごはん食べさせて、お風呂にも入らせて、俺の膝枕でウトウトしていたから。
「……おかえりぃ」
ブチブチ文句言うと起こして、愚図りそうだったから、寝室にヨイショと運んだ。
寝かかってるこどもってなんでこんな重たいんだろ。
今見てる夢の分の重さも追加されてんのかな、なーんて。
「俺、小市と先に食べたから」
「わかった」
なんで遅かったのか聞こうと思ったけれど「道が混んでた」ってまた同じ回答されたら頭パーーンしそうな気がして、もう、聞かなかった。
そしたら遅くなった理由、なーんの説明もなしに、ワンプレート風に残していた晩ごはんを巽は食べ始めた。
巽のバカ。バーカ。
次の日の朝。
ゴミ出しお願いした巽を送り出して、小市を送迎バスに乗せて、部屋に戻ってカチャカチャ後片付け……。
巽のバカ。バーカ。
バーーーーーーカ。
昨晩からずっとダンナ様相手に文句垂れてます、言葉にはしてないけど。
はぁ、浮気か。
改めて考えてみたらズンッッッて伸しかかってくるな。
小市が生まれて五年経って。
いろいろ壁はあったけど、巽がいてくれたから、巽と一緒に乗り越えられた。
もしも巽がいなくなったら。
「どうしよ」
思わず泣きそうになった。
水をジャージャー出しっぱなしにして、スポンジ必要以上に泡立てて、ゴム手袋はめたまま。
「うーーーーーーーッ」
泣くな、バカ、いや、バカは巽だ、バカバカダンナ様め。
俺には小市がいる。
小市のためにしっかりしないと。
「バカ、バーーカ、リレーで一位とったからってドヤ顔しやがって、体育教師なんだから当たり前じゃん、あの太腿フェチ、あっんなえっろい香水つけてんだもん、きっとどえろい女が相手してんだよ、あのスケベ」
「誰のこと言ってんだ、コーイチ」
いやーーーーー……。
ひっさびさにチビりそーなくらいビックリした。
巽の文句ブチブチ垂れてたら、いきなり巽の声、すっから。
顔上げたら……いたから、ダンナ様。
「リレーで一位とってドヤ顔、体育教師、太腿フェチ、それって俺のことか」
三十分前に送り出したはずの黒ジャー巽、カウンターで区切られたキッチンに大股でやってくると俺の顔を横から覗き込んできた。
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