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「そういえば今日だったか。全国予選、次の新人戦に向けた調整で頭いっぱいで。今の今まですっかり忘れてたな」 今日は巽の誕生日。 えーーーと、俺の今の財布の中身、今月、秋冬にはモッテコイなツイードのバッグと財布を買いまして、お札なし、小銭じゃらじゃら。 お、俺、何もかもおごられる気満々じゃん、今更ながら!? 「限定アイスうまかったのか」 「あ、うんっ」 「そろそろ行くか」 巽の誕生日、何かしてあげたいって思ってはいた、でもまさかこんないきなり当日ぶっちゃけられるとは。 俺、何ができる? 巽、何したら喜んでくれる? どうしよ。 か、か、考えなきゃーーーーーー!! 「映画面白かったか」 「おもしろかったーーー!ハラハラしたしドキドキした!」 「そうか」 「晩ごはん何食べよっか! ココで食べてく? いろいろ店あった、あ゛ッッッ!」 やべぇ。 映画が面白すぎてすっかり忘れてた。 何したら巽が喜んでくれるか考えるつもりだったのにぃぃッ! 「なんだ、忘れ物でもしたのかよ」 シネコンを出た辺りで巽と向かい合って、えーとえーと、そだな、せめて巽が好きなもの晩ごはんにするとか! 俺、お支払できない甲斐性ナシですけど!(泣) 「晩ごはんカレーにする?エビカレーにするっ?」 「カレーは一昨日の晩、昨日の晩、今日の昼食った」 「え゛ッッ」 「お前の食いたいモンでいい」 そんなトリプルカレーにすんなら四度目カレーにしたっていいじゃんッ、ッ、いやいや、強引にカレー食べさせたら本末転倒すぎッ、本日主役に無理矢理食わせてどーすんだッ! とりあえずグルメフロアに向かって、ぐるーり一周して、イタリアンの店に差し掛かったとき、俺、思い出した。 この店。 前に来たとき、他の客が誕生日サプライズされてた、確か。 アリかもーーーー!(支払うの巽ですけどーーーー(泣)) 「こ、ここにしよ! 巽さん!」

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