126 / 241

27-2

軽いノリだったが実際は生き死にがかかっている重要なチャンス。 終日営業している何でも屋でTheメイド服一式を買ってすぐに着替え、試供品コスメでぱぱぱっとメークし、シュシュでくるっと長めの髪を結んでみれば。 あっという間にメイド女装男子の出来上がり。 前に働いていた屋敷でも使用人の殆どがメイドだった、だから少しでも採用してもらえる確率を稼ぐためコーイチは女装を選んだ。 そうして町外れに広がる墓地まで慣れないヒールローファーで駆け足で戻り、門を潜り、草木に囲まれたやたら長いアプローチを迷わず進んで。 無駄に雰囲気高めなゴシック調お屋敷の扉前に辿り着くと。 牙を剥いた迫力ある獅子の……いや、珍しい狼のノッカーを引っ掴み、ガッツンガッツン、意気揚々と鳴らして。 にっこり、つくり笑顔の準備。 そして……扉は開かれた。 「誰だ」 てっきり頑固そうな中年偏屈オヤジが出てくるかと思っていたコーイチ。 だから。 黒のファーコートに黒ストライプのスーツ生地ベスト、アクセントとなるゴールドメタルチェーンがきらきらイカしている、こっ……んなまだ若々しい男前ご主人様が現れるとは予想もしていなかったので。 ぷしゅーーーっと一気にあがった。 あがって、用意していた自己紹介も脳内から吹っ飛んでしまった。 「あわわっあっおれっじゃなっ、私っ、張り紙を見て来ましたっ、あっ、あなたの奴隷になりたいです、ご主人様!!!!」 …………ん? 俺、今、何て言った? 「こちらで使用人として働かせて頂きたいと思い、やってきました」って言うつもりだったよな? 黒ずくめな主はてんぱり赤面コーイチをじっと見下ろした。 訪問者の失言に機嫌を悪くして追い返すかと思いきや。 「入れ」 速やかにコーイチを安住の巣なる屋敷へ迎え入れたのだった。

ともだちにシェアしよう!