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「あわわわわ」
昔から人間と共生しているモンスターの存在は知っていたがこうも身近にするのは初めてのことだった。
そう。
人間よりも秀でた能力を持つ彼等はぱっとしない辺境より華やかな都で財を築いてゴージャスに暮らすセレブが多いのだ。
『都会? 俺は富裕層が苦手なんだ。たとえ同類だろうとな』
一匹狼そのものなモンスターご主人様の言葉をコーイチは思い出す。
『朝は肉から始まる』
「あっ、朝ごはんっ」
昨夜屋敷をぐるりと案内されていたコーイチはキッチンで朝食の準備を始めた。
準備といっても保管されていた肉塊を大皿にどんどん盛ればいいだけの簡単なもの。
ま、まさか俺まで朝ごはんになったりしないよな?
大雑把に肉を盛りつけて、さぁ、大広間に持っていこうと振り返ったら。
いつの間にキッチンにやってきていたご主人様。
「わ!!」
びっくりしたコーイチは床に肉塊をぶちまけてしまった。
四つ足で軽やかにやってきた巽に鋭い眼でギロリと睨まれ、ひーーーーっと竦み上がっていたら。
その場で巽はお肉をガツガツガツガツ、大胆に朝ごはんを始めた。
「す、すみませぇん、ご主人様」
午前中はだだっ広い庭園の花に水遣り、一階のお掃除。
『昼も肉だ』
大皿に肉塊をどんどん盛って昼食の準備。
午後は二階のお掃除だ、普段使用しない部屋も毎日やれと言われており、おかげであっという間に夕暮れになった。
『一日は肉で終わる』
夕食も大皿に肉塊てんこ盛り。
ちょこちょこ自分の食事を済ませていたコーイチ、初日でぐったり、だった。
満月の夜に人の姿にってことは。
ご主人様、これからほぼ一ヶ月、狼ってことか。
大広間でガツガツ食事している巽を壁越しに遠目に眺める偽メイド。
最初はどうしようと不安に思ったが、一日お世話してみて、まぁやっていけなくもないかな、と感じていた。
色々と驚かされることはあったが。
「ぎゃーーーっ!?」
浴室でシャワーを浴びていたら気配を察し、防水カーテンを細く開いてみれば、狼ご主人様が何故かバスタブ前に堂々と居座っていた。
やばッ、見られたらばれるッ!
咄嗟に女子みたいにバスタオルを裸身に巻きつけて非難した。
「セクハラセクハラ!労働組合に訴えてやるッ!!」
そして。
こんなこともあった。
ビリリリリリリッ!!
「ぎゃっ!!」
なけなしの全財産を投げ出して買ったばかりのメイド服を……鋭い牙で引き千切られた。
おかげでギザギザなミニ丈になってしまったメイド服。
替えがないので泣く泣くそのままの格好でお掃除していたら。
「うわ!?」
踏み台に立って天井際の埃をハタキで掃いていたら真下から堂々と覗き込んでいた狼ご主人様。
なんだこのドエロご主人様!
それとも、もしかして男だって疑ってんのか?
どうしよう、騙されたって怒って噛みつかれる前に転職した方がいいのかな!?
それに。
こんな夜もあった。
前回のお屋敷ではかたーいベッドにうすっぺらな毛布一枚で夜を過ごしていたコーイチ。
今のお屋敷ではふかふかベッドにあったか毛布。
その上。
その夜は極上もふもふまで追加された。
「グルルルル」
狼ご主人様が寝床に潜り込んできたのだ。
こ、こんなこと言ってたっけ!?
契約書に書いてあんの!?
月に何度か雇用主による添い寝あります、とか!?
でも、これがまた、ぬっくぬくなんです。
あったけーです。
あ……なんか……寝る……これ、すぐ寝る……zzzzz。
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