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すっかり狼ご主人様との生活に馴染んできた偽メイドのコーイチ。
その日は肉屋へ台車を引いて数日分の食事を買いに出かけた。
ビリビリメイド服の上に一番サイズの近かったコート(それでもでっかい)を羽織って、亭主に肉塊満載のバケツを台車に載せてもらい、お屋敷へ帰っていたら。
よからぬ輩三人に絡まれた。
ナイフまでちらつかされて「ひーーーーっ」とコーイチが竦んでいたところへ。
狼ご主人様、登場。
吸血鬼みたいに日の光が苦手なわけじゃないモンスターはいとも容易くゴロツキどもを一瞬で追っ払った。
「ご主人様」
突き飛ばされて路上で擦り剥いた手の甲をべろりと舐められて。
前の屋敷で主から身の潔白を信じてもらえなかったコーイチはとても嬉しそうに笑った。
一度のブラッシングで使用不可になるブラシ。
時間をかけた分だけつやっつやになる毛並み。
怒られるかとビクビクしながらも頬擦りしてみれば夢のような感触。
「これ、最っ高です、ご主人様……」
日当たりのいい窓辺、ビクビクするのも忘れて狼ご主人様のもふもふ毛艶に夢中になる偽メイド。
二人だけの棲家にもうじき夜が訪れる。
「今日もいっぱい食べましたね」
巽が夕食を食べ終わるまでそばにいたコーイチは後片付け。
戸締まりを確認し、消灯し、部屋に備え付けのお風呂に入って就寝。
「ふわぁ……今日も働いたぁ……」
ふかふかの寝床であっという間に眠りに落ちそうになっていたところへ。
キィィ……
あ。
また来た、ご主人様。
もふもふ天然カイロ(笑)
コーイチが寝たフリをしてベッド脇で横向きに丸まっていたら、ギシリ、重みが加わった。
ん?
なんかいつもと違うよーな、
「佐藤」
振り返れば。
約一ヶ月ぶりに目にする人間姿のご主人様が同じベッドの中にいた。
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