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緒方巽は狼人(ろうにん)だ。 満月の夜に狼になる人狼とは逆パターンの生き物。 つまり満月の夜にだけ人の姿に、満月の夜以外は狼の姿でいるモンスター。 人間よりも秀でた能力を持つモンスター属の者達は都会に棲み暮らし、その特性を生かして財を築くケースが多いのだが、巽は一部の高飛車な富裕層が苦手であり、辺境の街にひっそり棲息していた。 もちろん使用人は欠かせない。 人間よりも長生きする巽はこれまでに多くの使用人を雇ってきた。 そして今現在の使用人というのが。 「ご、ご主人様ぁ……も、俺の腰、バカになっちゃぅよぉ……!」 女装して屋敷にやってきた偽メイドのコーイチであった。 「むにゃ……」 チュンチュン、外から聞こえてくる鳥の囀りに目覚めを誘われたコーイチ。 ふかふかベッドで毛布に包まっている彼のそばには、これまた極上のもふもふが寄り添っていた。 「むにゃっ?」 寝惚けてうにゃうにゃしていたコーイチは頬をべろんと舐められてびっくりした。 ぼっさぼさの髪、おまけに素っ裸で、そのスベスベお肌には噛み痕やらキスマークがこれでもかとちりばめられている。 ベッドの下には脱ぎ散らかされた寝間着ランジェリー。 ゆうべは満月、人化するなり颯爽と購入してきた寝間着ランジェリーを着るよう命じ、脱ぎ散らかした張本人である彼は「てめぇ寝坊し過ぎだ」とでも言いたげな眼差しでコーイチを覗き込んでいた。 「あ……ご主人様……おはよぉございます」 月に一度人間の姿になる巽に余すことなく溺愛されたコーイチは照れ笑いを浮かべ、もふもふ主人をよしよしと撫でた。 「テヘヘ。寝坊しちゃいました」 テヘヘ、じゃねぇ、さっさと飯の準備しやがれ。 「わ、ちょっと……鼻擦りつけないでください、くすぐったい!」 腹減ったんだよ、この寝坊メイドが。 「……ちょちょちょ、俺、さすがにその姿のご主人様とは、ちょっと、その、NGですから!」 ……この勘違いエロメイドが。

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