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30-けけけけかんか!?
「じゃあ別れるか、コーイチ」
俺、かたまった。
まさかそんなこと言われるなんて思ってもみなくて。
涙も引っ込むくらいのショックに打ちのめされた。
なーんでこんな展開になったのかと言うと。
ことの発端は数時間前、十ニ月に入って初の夜ごはんデート、ウキウキルンルンで巽との待ち合わせ場所に着いてみれば。
街中にある広場の端っこで巽はめちゃくちゃ美人な人と話してた。
明らかに生徒じゃねー、巽と同じ年くらいの、派手じゃなくてシンプルな格好だけど何か目立つオトナ女子だった。
にじり、にじり、俺が近寄ればその人はすぐに話を切り上げて去って行った。
俺にちゃんと挨拶するとこがまたオトナですね、ハイ。
「巽さん、今のって……元カノですか」
「違ぇよ」
そのときは「あ、違うんだ、そっかそっか、ふーーーーん」と一端落ち着いたけれど。
三十分くらいブラブラしてカレー屋さん入って注文済ませて「まだかなー」って待ってるときに、巽、言ったんだ。
「さっきのは元カノの友達だ」
…………。
この三十分くらいの間は何だったんですか、巽先生。
俺に言うか言わないか迷ってたシンキングタイムですか。
俺は待ち構えてたはずのチキンバターカレーもナンも食べ切れなかった、ちょっと残した。
急に現実味ってやつを帯びた元カノっていう存在のことで頭いっぱいいっぱいになって、会話もできなくて、それに巽もあんま話しかけてこない、え、なにこれ、いわゆる倦怠期ってやつ? 前触れもなくいきなり突入しちゃいました?
そんときは本気じゃなかった。
ガチで「別れ」なんてワード切り出されるなんて想像もしてなかった。
巽んちに移動するまで、車ん中で「元カノって、どんな?」「今とか連絡とってねーの?」「会ったりしてねーの?」「会いたくなんない?」って、俺、色々聞き過ぎた?
うるさかった?
うざかった?
でもふつーに気になったし。
巽が初めてで、それまで付き合ったこと未経験の俺。
タブーでも犯してたんだろーか。
踏んだらアウトな地雷を掘り起こそうとしてたんだろーか。
巽んちに着いて、ずっとテンション落ちててしょーもない質問ばっか言い続けて、ぜーんぶ無言で返事していた巽に、キレる元気もなくて、だんまりしてたら。
「じゃあ別れるか」宣言っすよ。
「じゃあ」の意味がわかんねー。
何か前置きありましたっけ?
ひでーですよ。
一つくらい答えてくれたっていーじゃんか、教師のくせ、めちゃくちゃ年上のくせ。
で、俺はと言うと。
何も言えねぇ状態っすよ。
何か言ったら言ったで墓穴掘りそーで、ますますみっともなくなりそーで、いつも居心地いいはずの大好きな空間がやたらヒンヤリ冷たくて、正直、お泊まりなんてムリ、もう帰りたいってなって。
「今日は帰れ、コーイチ」
あ、やったーーーーーー。
じゃねぇ、全然「やったー」感ねぇ。
言われたら言われたで重い。
つーか頭重たい、いっぱいいっぱい過ぎてグラグラする、マジで。
そんでさ。
黙って帰んのもアレだし、とにかく何か言わないとって、俺、別に悪くないのに、なんか俺だけ焦って、かっこわるくて、あーあ、余計なコト、言っちゃ、っ、た……。
「やっぱ女がいーんだ」
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