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「さて」 コーイチが暮らしていた屋敷の屋根裏部屋に一人戻った魔法使い。 狭くて、薄暗くて、冷たくて、ベッドは硬くて、薄っぺらな毛布一枚で。 意地悪な仮の家族の元、コーイチは健気に従順に慎ましく生活していた……わけでもなく。 『くっそ~、性格極悪女子め、顔いいからって根性ひん曲がってやがんの、せっかく洗濯したばっかの服にチョコレートつけるわ、拭いたばっかの床にポテトチップスのカスぶちまけるわ、マジで性格極悪極道、顔はいいけど』 『チュウ』 夜な夜な子ネズミ相手に延々と愚痴を語っていた。 『よぉ』 『うっわ、びっくりした! え、何、出窓からいきなり入ってきてんの、それ不法侵入ですけど? てか泥棒なの? 言っておきますけど俺金品持ってませんから? 金目当てなら下行って?』 外の明かりを取り込む唯一の出窓から急に部屋へと入ってきた魔法使いを、コーイチは、めちゃくちゃ露骨に警戒した。 『俺はそこにいる奴と知り合いだ』 キョロキョロして、自分以外誰もいねーじゃねーかよ的な眼差しで未だ警戒を解かないコーイチに、魔法使いは肩を竦めてみせた。 『チュウ』 『え、え~~……まさかネズミのこと言ってんの……?』 『やべぇ奴扱いするんじゃねぇ、俺は魔法使いだ、お前の愚痴をソイツから聞き知ってな、何とかしてやるよ、とりあえず来月開かれる城の舞踏会に向けて特訓だぞ』 『……急すぎてついていけません』 その日からプリンセス修行が始まった。 日中は家事で忙しいので睡眠を削らせてコーイチにプリンセスのノウハウを叩き込んだ。 『もう眠いよ~瞼重い~しぬ~』 『この屋根裏部屋で野垂れ死んでもいいんだな』 『野垂れ死にたくない~』 『おら、セロテープで瞼固定してやる』 『鬼ッッッ』 宵闇と静寂に満ちた部屋、今はいないコーイチの残像を脳裏に浮かべ、魔法使いは一人笑っていたのだが……。 ばたんッッがたがたがたッッがちゃんッッばたばたばたばたッッどんッッばたばたばたばたッッばんッッ!! 「……お前、どれだけ騒がしいんだ、コーイチ」 「こ、転んだ~……階段で転んだ~……」 つい先ほどまで念入りにプリンセス風に仕立てられていたはずが。 髪はぼっさぼさ、チークが施された頬には土がこびりつき、すっかり落ちたグロス、そしてドレスの裾は引き千切れて太腿丸出し……裸足……何故かガラスの靴を懐に抱いて。 珍しく呆気にとられている魔法使いの前にコーイチは戻ってきた。

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