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「お前、靴の意味知ってるか、手に持つモンじゃねぇぞ、足に履くモンだ」
「バカにすんなっ」
「階段で転んだだけでそんなザマになるか?」
「馬車から飛び降りた」
「あ?」
コーイチは大事そうに抱いていたガラスの靴を魔法使いへ差し出した。
「返す」
「お前、舞踏会行ってねぇのか」
「うん」
「どうしてドレスが破れてる、何かあったのか」
「自分で破った」
「あ?」
「走るのに邪魔だったから。靴も、ソレだと全然スピード出せねーし。ドレス破ってごめんなさい」
「何かあったわけじゃねぇんだな」
コーイチはパチパチ瞬きした。
何の前触れもなく魔法使いに抱き寄せられて、びっくりして、言葉どころか呼吸も忘れた。
「びっくりさせるんじゃねぇよ……心臓止まるかと思っただろうが」
魔法使いさん、まさか、誰かにドレス破られたって、そう思ったとか?
あのまま馬車に乗って城に行って見たこともねー王子様や王様と会うよりも。
魔法使いさんのとこ、戻りたいって、そう思ったから、そうしただけ……なんだよな。
つーか、そもそも、さ。
「俺、男だから。ぶっちゃけガチなお姫様なれねーじゃん?」
上背ある長身の魔法使いにすっぽり抱きしめられて逆上せながらも、コーイチは、何とか笑った。
「もし、うまくいって一緒に暮らすようになったらなったで、いつか絶対バレっし? 下手したら打ち首じゃん?」
「お前ならバレねぇよ。こんなに可愛いじゃねぇか」
うぎゃ……ッッ、やめ、やめて~~、心臓止まるから、んなこといきなり言うのやめて~~。
「いやいや、いつかバレます、怖ぇーです」
「贅沢三昧、あんなに憧れてただろ」
「んー。おいしいモン毎日食べて、のんびりだらだら過ごすのもいーけど。なんか家事すんのもちょっと楽しくなってきたし? お、こんなキレーなったじゃん、って、満足感見出しちゃったし?」
「そうか」
「それにお姉さまがた、性格極悪だけど、やっぱ顔いーし、いびられんのも悪くねーかなって、あれ、これってマゾ? 目覚めちゃったかな、俺? って、え、いだだッ、いだだだだだだッッ」
抱擁というより拘束、力強い両腕に容赦なく締めつけられてコーイチは目を白黒させた。
「しっしぬッ、窒息するッ、いだいーーーーッ!」
「じゃあ俺の恋人になるか、コーイチ」
コーイチは涙まで滲んでいた目を見開かせた。
不意に魔法使いに顔を覗き込まれて耳までまっかになった。
「なんだ、涙出るくらい嬉しいのか」
「ち、ちがッ……ちげーよ! 苦しーの! これプロレス技みてー! ギブギブギブギブ!」
「うるせぇ」
「んっっっ!?」
人生初のキスにコーイチは溶けそうになった……。
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