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おばかなコーイチは緒方宅のドアが開かれるなりハイテンションで喋りまくり、はたと相手を確認して、びっくりした。 お、緒方じゃない。 だ、誰、この人。 「……あの~? あれ、俺、部屋間違えました?」 相手は首を左右に振った。 よく見たら緒方に似ている。 十代の緒方を一回り以上成長させたような。 「……緒方のおとーさんですか?」 相手にじろりと見下ろされたコーイチ、慌てて言い直した。 「おっおにいさん!? お兄さんですか!?」 お兄さんって一人暮らししてて。 確か女子高の先生で、わー、女子高かぁ、いいなぁ、うらやまし~、毎日楽しそ~。 「上がんねぇのか」 「えっあっいいですか!? あはははは!!」 「弟、今、病院行ってる」 「へっ」 「そのうち帰ってくんだろ」 緒方のお兄さん、巽は、そう言ってすたすた部屋の奥へ行ってしまった。 なんかお兄さん怖ぇー。 緒方もちょっと怖いけど、もう免疫ついたし。 でもお兄さん怖ぇー、ほんとに先生なの? 裏でなんかやばいことしてんじゃないの? がちゃっ 「わっ!」 緒方の部屋で手持ち無沙汰にしていたコーイチはいきなりドアが開かれてまたびっくりした。 巽が中に入ってきた。 インスタントコーヒーの香りがふわりと漂った。 「あわわわわ、お、お構いなく、お兄さん」 トレイなどなし、直接マグカップを無言で手渡され、コーイチは神妙に両手で受け取った。 あ、お兄さんの手、でか。 緒方より骨組みしっかりしてるっていうか。 なんかえろい手だな……いやいやいやいや、なんでやねん! 「……えっ」 巽が部屋から去らず、ベッドのすぐ隣に腰掛けてきたので。 ちびちびコーヒーを啜っていたコーイチは素直にまたびっくり。 一番ハードな黒ケースの清涼剤をぼりぼり食べた巽、ちょっと伸びかけの前髪越しに、似非JKコーイチに不敵な笑みを……。

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