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そうして、体育祭、当日。
「う、うぇぇ、短いしコレ」
「長かったら逆に変だし。おかしくないよ。すごく似合ってる」
「へ、へぇ~?」
「コーイチ君って。ほんとムダ毛ないよね」
「え、あ、そーなの? 三里だってないじゃん? てか、あんま意識したこと、」
「しー。目、閉じて、じっとして」
「あ、あぅぅ……」
午後の競技が運動場で行われている最中。
本来ならば生徒は応援が義務付けられており、校舎にはトイレ使用以外戻ってはいけないことになっているのだが。
コーイチは教室の隅っこで三里に丁寧にメークしてもらっていた。
「阿南先生の許可、とったから。大丈夫」
「三里ってさ。阿南先生、怖くねーの? 俺、何考えてるのかよくわかんないから、何かこわい……」
「そこがいいって。僕は思う。しー」
「しーー……」
「ほ、ほんと大丈夫なんかなコレ。短くねっ? メークおかしくねっ?」
「早く行こう。競技始まっちゃう」
「み、三里ってば。俺怖ぃぃ……手ぇ繋いでぇ……」
「別にいいけど」
三里に手を引かれてコーイチはほぼ全校生徒が参加している体育祭真っ最中の校庭へ。
やたら感じる視線。
生徒のみならず保護者の目まで引いているような。
み、みんなヒいてんじゃねーのコレ、も、戻りたい、着替えたいっ、っ、三里強っ、握力ゴリラかっ、ぜんっぜん解けね~~っ。
「み、三里ぉ」
「あ、緒方君いた」
「うぇーーーーッ」
トラック中央では仮装レース前の競技が最終走に突入していた、各クラスの声援やら野次やら次から次に飛んで騒々しい、しかも盛大に流れるヒットチャート、ちょっとしたカオスだ。
恥ずかしくって仕方がないコーイチはむりやり縮こまって三里の背中に隠れた。
学校指定の黒ジャージをやたらスタイリッシュに着こなした緒方と顔を合わせるのが凄まじくおっかなくて。
「コーイチ、お前」
「似合ってるよね、コーイチ君。それにね、前から思ってた。化粧映えしそうって」
「化粧? してんのか?」
「し、し、してないよぉ~~」
ぐいっっっ
三里の小さな背中に無理して隠れていたコーイチはびっくりした。
緒方による強引な顎クイに涙まで出そうになった。
「お、緒方ぁ」
恐ろしく違和感なく馴染んだメーク。
アイブロウもアイシャドウもアイラインも、マスカラもチークもグロスも自然な仕上がりときていた。
赤と白をメインにしたノースリーブにミニ丈プリーツスカートなるチアガール衣装が華奢な体型にしっくりきている。
眩いまでに太腿全開、素足にごつめのスニーカー。
ちょっと長めの髪を一つ結びにしたシュシュやリストバンドといった脇役アイテムがこれまたアクセントを効かせている。
緒方にまじまじと見つめられて極限までてんぱったコーイチは。
三里にしがみついたまま今にも泣きそうな様子で言った。
「リレーのアンカー……っがっがっ……頑張っでね゛……?」
しかしながら緒方は体育祭最終競技の学年対抗リレーに不参加と相成った。
仮装レースで思いっきり転んでケガを負ったコーイチ。
すっかり舞い上がってしまっていた女装クラスメートをおんぶして保健室へ、アンカーの座は補欠に未練なく譲って「後頼む」と一言だけ残し、彼は行ってしまった……。
「お、お、緒方ぁ」
「……お前が変な風に痛がるからだろ」
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