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「お、お、緒方」 月曜日の朝、いつも通りを心がけたはずが思いっきり挙動不審に友達に声をかけたコーイチ。 丁度他愛ない話をしていたクラスメートが去り、ペットボトルを傾けて炭酸水をゴクゴク飲んでいた緒方はスクバを持ったままのコーイチを見やった。 「俺さ、まだちゃんと言ってなかった……ケガした俺のこと保健室に運んでくれてありがと」 「ん」 「おっ、お礼のカレーパンっ」 「ん」 週明けで体育祭の思い出話にはしゃぐクラスメートたち。 一人浮かない顔つきをして明らかに緊張している友達に緒方は言う。 「痛んだりしなかったか」 コーイチは……うんうん頷いた。 緒方が教えてくれた通り、土日はラップを巻いて、今はこれまた緒方に教えてもらった絆創膏を膝に貼ってケアしていた。 「そんなに深くなかったみてぇだし。痕にはならねぇと思うけど」 「うんうんっ」 「また同じとこ擦り剥くなよ」 あ。 よかった。 緒方、いつもといっしょだ。 うん、あれはなかったことにして、前と同じみたいに俺と友達でいてほしい。 それで十分だから、さ、俺………………。 「ま、また女装すんの?」 体育祭が終わればすぐ間近に迫る文化祭で客寄せのためコーイチは女装を強いられた。 「お姉ちゃんのお下がり貸してあげる」 それどころか。 「えっ、ちょっと待って三里、さ、さすがにコッチは、その、うぇぇぇえ」 「コーイチ君、似合いそうだし。あげる」 「あ、あげるって……うぇぇぇ……そもそも三里って、お姉ちゃんいねーじゃんッ、俺といっしょでひとりっこじゃんッ……ここまでやる意味あんのコレぇ……」 そんなこんなでやってきた文化祭。 「緒方、てへへ、似合う?」 今回はそこまで短すぎない膝上丈のスカート、臙脂のリボン、フェチ心を一段とくすぐる黒ストッキング。 冬物セーラー服にふんわり秋めくナチュラルメークを施して、どこからどう見ても現役カワユイ女子高生。 生徒や来客の注目をビシバシ浴びるほど様になっていた。 のだが。 「……」 無言の緒方に睨まれた。 予想外のリアクションにコーイチは「あれっ」と戸惑う。 急に行き場をなくした捨て犬みたいに友達の面前でどうしようと固まっていたら。 「巽クン」 あんまり過剰にカールさせず、ビューラーで自然に整えた睫毛、セパレートロングタイプのマスカラに彩られたコーイチの双眸が見開かれた。 女子高の元カノじゃん。 今日金曜なのになんで制服で堂々と来てんだろ。 ヨリ……いつの間に……戻したんだ……? へ、へぇぇ~知んなかった~ふぅ~ん……。 呆気にとられているコーイチの目の前で女子高ミスコン二位に輝いた経歴を持つ元カノは緒方の片腕に慣れた風に纏わりついた。 「巽クン、案内してくれないの?」 「あ……っ緒方行ってらっしゃい、クラスのみんなには言っとくねっ、さ……っさっさと行けっ、バーーーカ!」

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