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37-パラレル番外編★憧れの君のために女装ってもイイですか。②
「緒方、遅くなってごめーーん!!」
冬休みで大賑わいの大型複合ビル、十分近く遅刻してきた同級生のコーイチを緒方は仏頂面で出迎えた。
「お前なんだその格好」
あはは……ですよね~……。
長めの髪をラメ入りシュシュで一つ結び、ボルドーのVネックニットワンピにカーキのモッズコート、ショートブーツというれっきとした女装姿でほんのりメークしたコーイチは、たははと苦笑い。
『明日は緒方君とデートの日だったよね』
『べべべっ、別にデートじゃねーし!?』
『試合で負けちゃった緒方君のこと励ますには女装が一番だと思う』
『……そ、そぉ……かな?』
「また三里に何か吹き込まれてホイホイ従ったのかよ」
「ホイホイって、俺、別にゴキブリじゃねーもん!?」
女装に至った経緯を緒方にまんまと言い当てられて恥ずかしいコーイチはぎゃーすか言い返した。
でも。
代表の座を勝ち取って、ウィンターカップで三回戦まで勝ち進んで、三回戦で強豪校にブチ当たって、負けちゃって。
頑張った緒方のこと労いたいって思ったのは確かだ。
次期キャプテンになるの確実っぽいし、三学期からいろいろ忙しくなりそーだし、この冬休み、思いっきり一緒に遊べたらなぁって。
『お前が一番可愛いからだろ』
な、何気に俺の女装気に入られてるみたいだし?
ちょっとでも緒方が気分転換できたらいいかなぁって……。
「何、悠長にニヤニヤしてんだ、席なくなるだろうが」
甘酸っぱい青春感に一人浸ってニヤニヤしていたコーイチは、はたと我に返る、観たかった映画の開始時間まで残り三十分切っており、慌てて緒方の腕を引っ張った。
「チケットなくなっちゃうよ、早く行こ、ノロノロしてる時間なんかねーじゃん!!」
「お前な……」
「てかお腹へったよぉ、映画終わったらラーメン食べよ!」
「カレーに決まってんだろ」
クチコミ過熱、週間興行収入全米ナンバーワンだとかいうスペクタクルアクション映画の席は案の定ほぼほぼ埋まっていた。
「二人並んで取れない、か」
離れ離れの席しか空いておらず、甘えたなカップルならば次の上映を選んだかもしれないが。
「じゃあココとココで」
「えっ、あ、別々の席で観んの?」
「別にいいだろ」
「んー。まぁ。はぁ」
緒方は即座に映画館スタッフが提示した席を選び、コーイチはちょっと迷ったものの、同意した。
緒方にジュースとかポテト頼んでもらって、つまみ食いしたかったし、次の回でもよかったんだけど。
まーいーか。
そんなわけで二人は別々の席へ。
緒方の斜め後ろに回ったコーイチはコートをぬぎぬぎし、シートに落ち着くと、男前男子の同級生をまじまじと眺め回した。
黒のダウン、グレーのパーカー、インディゴブルーのデニム、この間買ったばっかの新品スニーカー。
ぶれない黒短髪。
てか緒方って意外と頭ちっちぇ、なんかずるっ、成績だってイイし背ぇ高いし、せめて頭くらいでっかくてもいーのに、どっか弱点あればいーのに。
うるさい視線に気づいたのか、緒方が僅かに後ろを向いたので、コーイチは甘えたな彼女みたいに両手を小さく振ってみた。
結果、緒方にガン無視された。
何事もなかったかのように前へ向き直った緒方にコーイチはむっとし、隣のカップルの彼女にクスクスされ、ちょっと縮こまった。
心の中で「緒方のバーカ」を繰り返していたら、予告が始まり、照明が落ちて。
これって空いてんじゃねーの? と思っていた隣の席に本編開始ギリギリのところで誰かが座り、やっぱ来たかと肩を竦め、特に気にするでもなく。
クチコミ過熱、週間興行収入全米ナンバーワンだとかいうスペクタクルアクション映画に見入った……。
「緒方っ!!」
シネコンのロビーの片隅で自分のことを待っていた緒方の元へコーイチは笑顔で駆け寄った。
「映画おもしろかった!!」
「そうだな」
「まさか一番最初に死んだ人が大ボスとか、すごくね!? やばくね!?」
「よくあるパターンだろ、つぅか、ここでネタバレはやめろ」
「あわわっ、あとさ、俺痴漢されちゃった!!」
人の流れが絶えず、誰かにぶつからないようコーイチを引き寄せかけた緒方の手が、ぴたりと止まった。
「は?」
「隣の奴に太腿さわられた、やっぱ変態っているんだな、きもちわる!!」
男は映画の途中で去っていき、気持ち悪かったし腹も立ったが、続きが気になったコーイチは自分のコートを空席に置いてそのまま鑑賞することを選んだ。
「最低最悪だよな〜、でも途中でどっか行ってくれてよかった~、あと誰か別のコが痴漢されないでよかった~、てかお腹へった〜、早くラーメン食べ行こ……」
緒方に睨まれてコーイチはキョトンした。
「お前、このクソバカ、コーイチ」
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