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「は……? クソバカ……? え……俺が……クソやろーの……バカやろー……?」 なんで痴漢された俺がクソバカって罵られなきゃ……いけないんだよ!? 「なんでだよ!!」 つい大声を出したら複数の客の視線を浴び、コーイチは気まずそうに口を噤んだ。 周囲のリアクションなど一切構わずに緒方はコーイチを睨み続ける。 ガチでキレている同級生に女装男子はたじろいだ。 なんで怒ってんの、緒方。 別に緒方がガチホモ痴漢に痴漢されたとかじゃないのに。 こんなブチギレてんの初めて見る。 なんでだよ、意味わかんねー、俺、ぜんっぜん悪くないのに、悪いことしてないのに、バーーカ、バーーカ、バーーーーカ……。 「全然よくねぇだろうが」 グッズ売り場の傍らで緒方は懸命に睨み返してくるコーイチに言った。 「お前が痴漢されて俺がよくねぇよ」 瞼にはピンクブラウンのアイシャドウ、ブラックのマスカラが丁寧に施されたコーイチの双眸がでっかく見開かれた。 「途中で席立ったにしろ、お前が痴漢されたことに変わりはねぇだろ、誰だよ」 「えっ」 「殴りにいく」 いーまかーら、痴漢を、これからー、痴漢をー、なぐりに~いこうか~……♪ 「まだその辺にいるんじゃねぇのか」 映画館内を行き来する大勢の群集、その内の男性陣に見境なしの敵意を向けようとしている緒方にコーイチはぎょっとした。 フライング気味に拳を握っている怒れる男前男子の片腕に咄嗟に飛びついた。 「も、もういないよ、多分、逃げたと思う、てか顔見てねーし、誰だかわかんないよ」 キャラメルポップコーンの甘い香り。 客のざわめき。 音漏れしているド派手な効果音。 緒方は必死こいて自分を止めようとしているコーイチを、睨まずに、じっと見下ろした。 「俺がそっちに座るべきだった、ごめんな、コーイチ」 急に真顔で詫びられてコーイチは……きゅーーーーっん、した。 「う、う、う」 緒方が俺に謝るなんて、なにこれ、これなに。 ありえなさすぎてビビる。 そんでなんかモーレツに……胸にクル。 このまま俺の世界終わっちゃうかも。 このままガチでキュン死にするかも。

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