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「コーイチ、お前暇だろ。どこか行ってこい」
「行かねーもん、巽さんといるし、あ、マニキュアぬろっかな、ペディキュアも」
「わざわざ持ってきたのか」
「暇潰しに丁度いいかなって。くさい?」
「塗ってやる」
「へっ? だめだよ! 巽さん病人なんだから! 今日はゆっくり休んでて!」
巽をベッドに追い払って、窓ちょこっと開けて、窓辺で手足の爪、ぬりぬりした。
日が当たってきれいに見える。
かわいーピンク色。
よっしゃ、今日はきれいに濡れた、時間に余裕あっからなー、たまに左手の爪とかやばい仕上がりになるからさー、やっぱり何かと心の余裕、大切だよなー。
「あ、そーだ」
俺は四つん這いになって床を移動してベッドのそばへ。
「何だ」
「うわ、起きてる、なんで寝てないの、病人のくせに」
「……お前、ちょくちょく病気の俺をディスるのな」
「巽さん、手、貸して」
「マニキュアはお断りだ」
「なんで? ほらほら、このピンクこんっなかわいーじゃん?」
「俺は自分に可愛い要素を何一つ求めていない」
「俺も巽さんに可愛い要素求めてねーけど、今、暇だし」
「……だからどこか遊びに行けって言ってるだろうが」
「やだ。ここいるもん。今日は巽さんのお世話すんの」
「……」
「ねーねー、貸してよぉ、ねーねーねーねー」
「……左の小指だけだ」
やった!!!!
「ぬりぬりぬりぬり」
「くすぐったいな」
「わぁ、動くなぁ、よれるぅ」
「……薬指もオマケにつけてやる」
「やったぁ。あ、そろそろ熱測ってみれば?」
「……さっき測ったばかりだろうが」
「ごほごほッ」
いつの間にか窓辺の日向で昼寝していた俺。
巽の咳き込む声で目が覚めた。
「……あれ」
体を起こせば床にするりと滑り落ちていったブランケット。
巽がかけてくれたんだ。
明るかった外は西日に包まれ始めていて、ほっぺたに当たる風が冷たくて、開けっ放しにしていた窓を慌てて閉めた。
「ごめん、巽さん、寒かった……」
俺は慌てて口を閉じた。
巽、寝てる。
フローリングの床をぺたぺた言わせて、ベッドまで近づいて、その場にしゃがみ込む。
壁の方を向いて、ちょっとしかめっ面で、冷えピタして眠っている巽のそばでブランケットに包まった。
冷えピタしてても巽かっけぇ。
写真撮りたい。
でも、シャッター音で起きるんだよな、この体育教師、五感が鋭すぎる殺し屋かっていうくらいに。
た・つ・み・さ・ん
声には出さないで、唇だけ動かして、呼んでみた。
今日一日、俺の方が巽に看病されてるみたいだったね。
風邪引いてたのに、俺のことちょこちょこ心配してくれて、ありがとね。
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