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39-パラレル番外編★白雪姫ぱろ!!
猛り唸る風にざわつく森の懐。
「狩人さん……わたしを殺しにきたの……?」
美人ながらも意地悪冷血な継母お妃様によって放たされた殺し屋兼狩人に白雪姫が追い込まれていた。
「そうだ」
遠吠えにも似た風の音色にも負けない、よく通る声で狩人は答える。
「お前の命をもらうぞ、白雪姫」
鋭い目に射竦められた可憐な白雪姫はその場で凍りつく。
ロングジャケットの裾を勇ましく翻し、手入れの行き届いた得物なるダガーを翳し、自分の真ん前まで大股でやってきた狩人をただ見つめることしかできずにーー
「かっ……かっこいい、巽さぁんっっ」
我慢できずに、むぎゅっっっ、抱きついた。
「……おい」
「殺し屋ヅラした巽さん、やばい~、たまらん~、やばい~」
ふわふわドレスで裸足の白雪姫・女装男子のコーイチにぎゅうぎゅうハグされて狩人の巽は呆れた。
「危ねぇ奴だな、刺さるとこだったぞ」
咄嗟にダガーを背後に向けて彼はコーイチを受け止めていた。
「それに殺し屋ヅラじゃねぇ、ガチでそうなんだからな」
「うん」
「お妃のシナリオ通りなら、ここで俺はお前を殺して肺と肝を取り出すところだ」
「おえっ。そんなモンどーすんの?」
「まぁ、食べるんだろうな」
「おえっっっ」
お妃様が信頼していたはずの狩人。
『鏡よ鏡、この世界で一番美しいのは誰?』
魔法の鏡に祝福された白雪姫。
二人は誰にもナイショの恋仲にあった。
その信頼関係を逆手に取った狩人、白雪姫抹殺計画の実行者として加わり、逆に白雪姫を守ろうとしたわけだ。
「あ~~、でも今の楽しかった~~、巽さんに追っかけられるのゾクゾクした!」
勝手知ったる森の中。
これまで念入りに練ってきた打ち合わせ通り、コーイチと白熱した風の追いかけっこを繰り広げ、お妃がつけていた監視役を撒いたところで、ちょっとした余興に乗じた二人なわけで。
「お前が道順を間違えないか冷や汗ものだった」
「だってめちゃくちゃ走らされたし、嫌でも覚えたし、足腰鍛えられましたし」
城をこっそり抜け出して巽との特訓に日々励んでいたコーイチは飛び切りの笑顔を浮かべた。
「行こう、巽さん!!」
本当ならば。
コーイチを安全な場所へ逃がし、獣の血肉を白雪姫のものと偽って城に持ち帰り、巽はこれまで通り腕利きの殺し屋狩人として妃に仕えるつもりでいた。
「俺が城に戻ってお前を仕留めたと報告すれば、追手もつかない、お前は逃げ果せる」
「うんっ、そうだね!」
「でも俺とお前の二人とも城に戻らなければ追手がつく。自由になれねぇぞ。それでもいいのか、コーイチ」
「うんっっ!!」
コーイチは一切躊躇わずに頷いた。
巽はやれやれと肩を竦めてみせた。
「俺の身代わりとして森の動物が殺されるのも嫌だし、俺一人で逃げるのも嫌だし、なんつっても巽さんがいなきゃ絶対嫌です、ありえない、むりむりむりむり!!」
今にも外れそうなレースのリボン、ぐしゃぐしゃに乱れた髪、頬には擦り傷、剥き出しの足は泥だらけ。
それでも嬉しそうに満面の笑顔を浮かべているコーイチにつられて巽も笑った。
「わがまま姫め」
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