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「迷ったのか」 森の中で迷子になった、あちこち歩き回ってクタクタになった、ちっちゃなコーイチ。 切り株にちょっこん座って休憩していたら、いつの間にか、すぐ背後に一人の青年が立っていた。 「わぁっ、びっくりした!」 「お前、城の人間か」 まんまるおめめをぱっちり見開かせて驚いているコーイチに青年は尋ねる。 「もしかしてお前が白雪の君か?」 「うんっ。おれねっ、白雪の君っ」 かわゆいドレスは泥だらけ、裾はビリビリ破れまくり、裸足のふくらはぎには切り傷あり。 今は亡き母親の影響で女の子の格好をするのが大好きな白雪姫のコーイチ。 レースのリボンで髪を一つ結びした女の子の如き男の子は突然現れた青年に怯えるでもなく、人懐っこい笑顔を浮かべた。 「驚いたな。白雪姫は男だったのか」 「おにいさん、だぁれ?」 「俺はこの森を根城にしている狩人の一族だ。オヤジが頭領をやってる」 「とーりょー」 「質のいい毛皮が手に入ったら城に売りにいくこともある」 「ふーーーん」 「お前いくつだ」 「七つ。狩人さんは?」 「俺は十九歳になる」 七つになったコーイチは、最近、継母のお妃様に冷たく足蹴にされていた。 魔法の鏡が世界で一番美しいものとしてコーイチを名指しするようになり、まったくもって面白くなく、いつか亡きものにしてやろうと魔女の血を継ぐ彼女は企んでいた。 「最近ね、お部屋にばっかり閉じ込められてたの。だからこっそり抜け出して遊んでたら迷っちゃった」 幼い純粋なコーイチは継母の殺意にすら気づかずにいる。 狩人頭である自分の父親が彼女に密かに目をかけられ、時に禁断の逢瀬に至っていることを知っている青年は「閉じ込められるのは俺も嫌いだ」と呟いた。 「かっこいい」 腰ベルトに差すダガーに興味津々、勝手に触ろうとしてくるコーイチのちっちゃな頭をむんずと掴んで引き離す。 カーキ色のジャケット裾を落ち葉の降り積もる地面に広げ、跪いた。 「そこまでひどい傷じゃねぇな」 切り株にちょっこんしているコーイチの片足を持ち上げ、ふくらはぎの傷口が浅いことを確認し、そっと口づけた。 「くすぐったい」 クスクス笑うコーイチを上目遣いに見、消毒代わりのキスを施してから、自分のシャツを惜し気もなくビリビリ引き裂き、包帯代わりに巻いた。 「ありがとー」 「礼なら金貨で頼む」 「おれ、まだちっちゃいから金貨もってないもん」 鳥の囀り。 風もないのに頭上高くからゆらゆら舞い落ちる葉っぱ。 あたたかな木漏れ日。 「それじゃあ、はい、これ」 コーイチはレースのリボンを外すと青年の手首に巻いた。 「こんなモン、腹の足しにもならねぇ」 「狩人さん、お名前は?」 「俺は巽だ」 「おれね、白雪姫のコーイチ!」 古より延々と息づく森の懐で二人は出会った。

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