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40-パラレル番外編★緒方センセイ、王子様役やってください!
王子様役ならまだしもお姫様役になりたいなんてどーかしてる。
「うっわ、ぴったし、かわいー!」
「こんな短いの私むり、うらやまし」
「さすがイヴちゃんっ、さすが妖精系人気読モっ」
十一月、もーすぐ高校の文化祭。
俺のクラスは体育館で劇をする。
「眠れる森の美女・令和ばーじょん」ってやつ。
お姫様役は、学校一かわいい、読モの仕事もやってるクラスメートのイヴちゃん(伊部川)。
「ウィッグ用意したけど、いらないかな?」
「そだね、イヴちゃんの一部隠しちゃうのはもったいないよ」
確かにイヴちゃんはかわいい。
足なっが、ほっそ、色しっろ、顔ちっさ、ふわふわミニドレスがめちゃくちゃ似合ってる、肩とか腕とか丸出しで、寒くないのかなー、目のやり場に困るんですけど、でも見ちゃいますけど。
放課後、教室の黒板前で衣装合わせをしているイヴちゃん、その周りを囲う文化祭企画委員や友達の女子、みんなできゃっきゃはしゃいでいる。
劇はクラス全員参加、裏方的な仕事はみんなで協力して仕上げる方針で、村人役の俺と友達は教室の隅っこに座り込んでペーパーフラワーをせっせと大量生産中だった。
「見に来る奴多いだろーな」
「インスタのフォロワー全員くんじゃね」
「え、体育館に全員はいっかな?」
他のクラスメートは広めの白いレースにビジューを縫いつけていたり、台詞の練習をだらだらしていたり。
「ほんとかわいーなー」
「コーイチ、見過ぎだって」
「まー、かわいいだけじゃなくて性格もいーし、見たくなるのはわかる」
「でもまさかその相手役がな」
「緒方センセーとはな」
「よくオッケーしたよな」
そーなのだ。
イヴちゃんの相手役、つまり王子様役は体育の緒方センセイがやることになっていた。
「イヴちゃんが希望したんだろ? それなら緒方センセーだってオッケーするだろ」
「企画委員、ガチで<がんばったで賞>狙ってるな」
「とったらなんかもらえんだっけ」
「青春の思い出がもらえる」
「いらんし」
「こらー、コーイチ、手ぇ止まってるぞ」
「あー、ごめん」
俺は緒方センセイのことが好きだ。
男なのに。
年上キレイ系のコがタイプだったはずなのに。
怒ると怖そーな、でも男前度が半端ない、オトナの男っぽいでっかい手がたまんない、あんま笑わないけど横顔がかっこいい、後ろ姿までかっこいい、正面なんかとにかくかっこいい、黒ジャーがスタイリッシュにキマッてる体育教師のこと。
めちゃくちゃ好きなんですよねー。
……報われないですよねー。
……イヴちゃんみたいな、あんなかわいー女子だったらなー。
「コーイチ、女の子役すりゃーいいのに」
十月にあった体育祭のことをぶり返されて俺は苦笑いするしかなかった。
「おれも思った」
「はいー? あんとき、ないわー、って言ってなかったっけ?」
「ううん、ほんとはすげー似合ってるって思ってた」
「実は俺も」
体育祭のとき、仮装レースで友達のおねーさんのお古のセーラー服を着て走った。
そのときは変なテンションで盛り上がってて別に何とも思わなかった。
でも、次の週に廊下に張り出された写真にやたら写り込んでたんだよな、これが。
改めて見てみると恥ずかしくなって、体育祭の写真ほしかったのに、あんまりちゃんと見れなくて、一枚も購入できなかった……。
「あんとき足の毛剃ってたの?」
「剃ってねーもん。元からあんま生えねーの。今までだって体育で足出してたじゃん?」
「んないちいちお前の足になんか日頃注目するわけねーわ」
「不思議だよなー、セーラー服着て、髪かわいく結んだだけで、雰囲気変わるっていうか」
「もういーです、その話は、早いとこコレ仕上げて何か食べいこーよ、あ、ラーメン食べたい、ラーメン食べよう」
床に座りっぱなしでいるのもなんか疲れる。
俺は後ろに両手を突いて、ぐーーーーっと背中を反らして、ストレッチするみたいに首を伸ばして真上を向いた。
「うぎゃっっっ!?」
真上を向いたら真顔の緒方センセイと目が合って心臓が止まるかと思った。
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